2024年3月17日
【創業200周年】モーブッサンとは?歴史や特徴を徹底解説!
ブランド
グランサンクの一角を担うモーブッサン。
日本進出時にダイヤモンドを無料配布して話題となり注目を集めました。まもなく創業200年周年をむかえるモーブッサンには世代を超えて愛されるジュエリーとの出会いがあります。
この記事では、老舗ジュエラーのモーブッサンについて解説していきたいと思います。グランサンクや世界5大ジュエラーの意味、それぞれの歴史についても紹介しています。モーブッサンで購入を検討している方や、店選びから悩んでいる方の参考になるので、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
1.創業から現在に至るまで。モーブッサンの歴史。
1-1.1827年、パリにアトリエを設立。
1827年、モーブッサン(MAUBOUSSIN)はロシェ氏とジャン・パプティスト・ヌーリーがパリにアトリエを持ったことから始まります。このアトリエで、ヌーリーの甥であるジョルジュ・モーブッサンは宝石職人として研鑽を積み経営を担うようになっていきます。
パリがファッションの都となり、ジュエリー産業もまた華やかな時代をむかえました。女性が社会進出をとげるなか、彼はいち早くファッション誌「ヴォーグ」などで作品を提供することに取り組みます。一流の写真家の手によって撮影された作品は女性の憧れのジュエリーへと昇華を遂げたのです。
1-2.アールデコスタイルを取り入れた作品が成功。セレブ御用達のブランドへ。
当時のアールデコスタイルを巧みに作品へとりいれ、東洋的なカラーストーンである翡翠やパール、ラピスラズリをセッティングしました。彼のもくろみは成功をおさめ、1924年には米国で行われたフランス展で見事グランプリを受賞したのです。その後も高い評価を受け、世界中に知られるジュエラーとなったモーブッサンは、1933年以降インドのマハラジャ御用達の称号を得ています。
1936年代から米国への進出を果たし、ハリウッド女優らの信頼も獲得するようになっていきます。特に後述するマレーネ・ディートリッヒとの蜜月はあまりにも有名です。このころの作品は直線的かつ大胆な宝石使いだけでなく、パーツを取りはずしてペンダントやブレスレットの2wayで着用できる点が特徴として挙げられます。この機能性に富んだデザインは大いに人気を博しました。
1-3.ダイヤやカラーストーンのジュエリーで最盛期へ。現在に至る。
1940年代にはいると女性が自ら宝石を求めるようになります。ジュエリーがより身近になり、ダイヤモンドやカラーストーン使いに定評のあるモーブッサンは最盛期を迎えます。この頃、職人の一人であるルネ・ラカーズがインスピレーションを与えたことは特筆すべきでしょう。彼はモーブッサンが培ってきた素材や技術を掘りおこし、新たな高みへと導いていきます。
カラーストーンに彫刻を施したり、エナメルを復活させたりして作品に採用したのは決して懐古趣味ではありません。ジュエリーに豊かな色彩をもたらすためです。色彩へのこだわりはモーブッサンを語るうえで無くてはならない要素といえます。現在のカラーストーン(半貴石)を採用した商品からも、そのスピリッツがかいま見えるでしょう。
2.モーブッサンの特徴
ここでは、モーブッサンの特徴について解説していきたいと思います。
2-1.ジュエリーから時計製造まで手掛けている
1827年の創業から1940年代にかけて確固たる地位を築いたモーブッサン。
1950年代には独自のブティックスタイルで店舗販売を本格化させます。女性たちが自由に店を訪れてジュエリーを直接選べるようにしたのです。この目論見はまたしても成功しました。時代の豊かさもジュエリー業界全体の追い風となり、ボリュームのあるブローチや指輪が売上を伸ばしていきます。素材にアフリカ産の木材を使ったユニークな作品はこの時代のものです。
1980年代に肌にふれる指輪の触感に配慮したデザインが生みだされたのは、細やかに顧客の要望を汲んでいたモーブッサンならではの閃きでした。現在もル・プルミエ・ジュールコレクションのリングは着け心地の良さで定評のある逸品です。
1994年、モーブッサンは新たにリシャール・ミル氏と時計製造の取り組みを始めます。一流のクリエーターチームによって、現在もアンティークとして人気のレディMやフーガといった名品ウォッチを誕生させました。
2006年には日本へ初進出を果たし、チャンス・オブ・ラブコレクションは幅広い世代に根強い人気を集めています。
2-2.アールデコ期に生まれた傑作デザイン
モーブッサンの全盛期といえば、やはりアールデコ期の作品が挙げられます。今でもパリ万博で金メダルを受賞した頃の作品がオークションに出品されていて、その美しさに魅了されるファンも少なくありません。
近年もモーブッサンのコレクションの随所にアールデコのエッセンスが効いています。これはインドのマハラジャやブルネイ王国との長く良好な関係から、アールデコ様式を好む中東を意識したデザインを数多く手がけてきたことと無縁ではないでしょう
2-3.カラーストーン(半貴石)への功績
モーブッサンの功績として、カラーストーンを積極的にジュエリーに採用したことは特筆すべき点です。諸説あるものの、半貴石といわれる素材をジュエリーに採用したのはモーブッサンが先駆けといわれています。(ここでの半貴石は4大宝石であるダイヤモンド、ルビー、サファイヤ、エメラルド以外と定義しています)
様々なカラーストーンを、まるでパレットから絵具を選ぶように自在に操るクリエイティビティは多くのファンを魅了してやみません。
3.モーブッサンの人気コレクション5選
ここからはモーブッサンで人気のコレクション5つについて解説していきます。それぞれのコレクションではリング、ネックレス、ピアスなどのアイテムが展開されています。
3-1.チャンス・オブ・ラブ
チャンス・オブ・ラブは四つ葉のクローバーをモチーフとしたデザインです。現在もっとも人気のコレクションで、モーブッサンの代表的な存在になっています。2005年ごろに発表された比較的新しいデザインで、四つ葉のセンターに一粒ダイヤを配し、パヴェセッティングダイヤが取り巻きます。
高低差から立体感が感じられ、愛らしくも華やかな存在感はしばしば婚約指輪として選ばれています。ピアスやネックレスはラッキーアイテムとして、さりげなく日常使いしたい方におすすめのコレクションとなっています。
「愛・幸福のチャンス」がテーマなので、身に着けているだけでハッピーな気分になれるかもしれませんね。
3-2.ドリーム・アンド・ラブ
ドリーム・アンド・ラブのふっくらとした逆三角形は「神聖さ」を意味しています。この特徴的な枠のセンターに、一粒のダイヤモンドが煌めきます。結婚指輪として不動の人気を誇るデザインは、ダイヤモンドのクオリティの高さを堪能できるコレクションです。
モーブッサンでは予算が許す限り好みのゴールド地金、ダイヤモンドのカラット、クラリティから選べます。ジュエリーは選んでいる時間そのものを楽しめるショッピングですから、存分に迷うことをおすすめします。
3-3.エトワール
斜めの十字型がユニークなエトワールはフランス語で「星」を意味しています。モーブッサンのブランドロゴでもあり星の瞬きをイメージさせるスタイリッシュなコレクションです。現在、ネックレスやブレスレットに多く採用されていてバリエーション豊富にラインナップされています。どちらかといえばカジュアルなので、日常使いに楽しめるのではないでしょうか。
黒のエナメルとダイヤとのコンビネーションが見事な「エトワール1934」ラインは、モーブッサンお得意のアールデコ様式を彷彿とさせるデザインです。装いのアクセントになりそうな特別感のあるコレクションになっています。
3-4.クルール・ダムール
カラーストーンをメインに、その色の組み合わせが絶妙なコレクションです。オレンジ色の大粒シトリンを中心に、まわりをオレンジサファイヤでパヴェセッティングして統一感を持たせたり、グリーンサファイヤのセンターにピンクサファイヤを取り巻いて色をコントラストさせたりするコンビネーションは見事としか言い表せません。
大きなカラーストーンは時に嫌味に映る心配があって着けるシーンが限られるのでは?と考える向きがあるかもしれません。しかしモーブッサンのカラーストーンは、その透明度の高さから軽やかに着けられるので、その心配は杞憂となるでしょう。カラーストーンの色味と瑞々しいツヤ感は肌を明るく見せてくれるので、大人女性におすすめしたいコレクションです。
3-5.キフ&キス
このリングはエトワールの派生ラインで、そのボリュームが特徴的なコレクションです。そのため男性も着けられる60号以上のサイズが展開されています。地金をたっぷりと使い、空間を持たせたラインで流れ星を表現したリングは優雅に手元を演出してくれるでしょう。
ダイヤモンドのライン使いが美しい、ふとした瞬間に視線を向けたくなるような素晴らしいリングです。もともと指輪は富や権威の象徴として男性の装身具でした。ゴツ過ぎない印象のキフ&キスリングは現代のメンズファッションに取り入れやすいのではないでしょうか。
3-6.ル・プルミエ・ジュール
三つの環で「永遠」「誠実」「忠実」を表現しています。このコレクションの特徴は地金のミルグレイン加工にあります。地金の表面をタガネという道具で打ち、小さな模様を刻みつけます。非常に根気と技術が求められる加工ですが繊細な模様は美しく輝きます。間を置いてセッティングされたダイヤモンドとの一体感で地金自体を楽しめるジュエリーです。
特にリングは幅広でありながら肌当たりが柔らかく着けられます。引っかかりが無く、和装に合わせるのにおすすめです。この加工はモーブッサンの時計にも採用されています。
4.モーブッサンのカラーストーンジュエリー
ここではモーブッサンのカラーストーの中で特に人気のあるものについて解説します。
4-1.アメシスト
日本では紫水晶という名称で馴染みのあるアメシスト。色によって呼び名が変わり、紫色がアメシスト、淡いラベンダー色のものはローズドフランスになります。これは石に含まれる鉄分により引き起こされます。主な産地はブラジルやウルグアイ、ボリビアです。
モーブッサンでは比較的淡い色の石を採用していて着けると肌を美しく演出してくれます。カラーストーンは色が濃いほど評価が高く価格が上がるものの、角度によって黒っぽく見えてしまいます。モーブッサンでは明るい色と、にごりの無い透明なアメシストに出会えます。クレール・ダムールやソレイユ・エテのラインがおすすめです。
4-2.スモーキークォーツ
スモーキークォーツは水晶の一種で、赤みの少ない茶色はパワーストーンとして近年人気を集めています。落ち着いた色味はファッションに馴染みやすいので汎用性が高いといえるでしょう。モーブッサンではオレンジサファイアとコンビネーションさせて一粒を楽しむクレール・ダムールのリングがおすすめです。
4-3.シトリン
シトリンもまた水晶の一種ですが、黄色からオレンジ色まで色味が豊富です。透明感のある黄色は光の象徴で、身につけると人との出会いを呼ぶとされています。また金運アップにつながるとも言われていて、お守りとしても人気があるカラーストーンです。
モーブッサンのソレイユ・エテコレクションのペンダントは日本人の肌に馴染みやすく、普段使いしやすいのでおすすめです。
4-4.トパーズ
トパーズは産地で色味が変わる鉱石です。日本では黄色が多いため、和名が黄玉(おうぎょく)とされています。モーブッサンではブルートパーズを採用しています。透明感と青色がしっかり視認できるカラーストーンです。11月の誕生石としてプレゼントにもおすすめです。
4-5.オニキス
黒いカラーストーンの代表といえばオニキスが挙げられます。古来より魔除けの意味をもつパワーストーンとして用いられてきました。国によっては喪の席のジュエリーとしても知られています。モーブッサンでは、この保守的なカラーストーンをゴージャスに仕上げて見せてくれます。「パリのマハラジャ」は栄華を極めたインドのマハラジャにオマージュを捧げたリングです。オニキスをセンターに配してブラックエナメルで全体を包み、アクセントにイエローゴールドでオニキスを囲んだリングは、エッジの利いたこなれ感を演出できるでしょう。インデックスリングやミドルリングとしておすすめです。
5.モーブッサンのおすすめリングとは?
モーブッサンのリングには他のジュエラーにはない個性的なものが揃っています。
ここではモーブッサンのリングについて解説します。
5-1.落ち着いた印象の結婚指輪(マリッジリング)
婚約指輪とお揃いで購入することが多いマリッジリング。婚約指輪ほどこだわらずに選び、しまい込んでいないでしょうか。モーブッサンでは日常生活に程よくなじんで着けやすい、お気に入りのリングに出会えます。
モーブッサンのシンボル、エトワール「星」が刻印されたトワ・エテルネル・モナムールリングやオデオン・ダムールリングは地金の加工が個性的です。前者はブラッシュ加工でつや消し、後者は全体がスクエアになるようリングの外枠を研磨しています。どちらもシンプルながらスタイリッシュな印象を与えます。またパスク・テュ・エ・シュブリムリングは、ダイヤと並行してブラックダイヤモンドをパヴェセッティングしています。
昨今、ブラックダイヤモンドは男性のネックレスとして人気を集めています。「リングはちょっと…」という男性にも抵抗なく着けられるのではないでしょうか。ネックレスとのリンクコーデも可能です。予算によって幅や地金の種類も自由に選べます。落ち着きをもたせながら一ひねり効いたものが欲しい方は、モーブッサンのマリッジリングがおすすめです。
5-2.華やかなデザインリング
モーブッサンはデザインリングも秀逸です。しっかりとボリューム感を持たせた様々なテイストのリングが揃っています。四つ葉のクローバーモチーフを7つあしらったユニオン・チャンスは空間をデザインの一部にしたエレガントなリングです。シルバー素材とはいえ10万円以内でおさまる価格も魅力といえるでしょう。
カラーストーンを楽しむならソレイユ・エテの潔いデザインは見逃せません。このリングはセンターのカラーストーンをダイヤモンドで取り巻いているので石の色が鮮明に映ります。初めてカラーストーンジュエリーを持つ方にも使いやすいのでおすすめです。ジュ・ル・ヴは5連の環をダイヤモンドで取り巻いたゴージャスなリングです。「完璧な人生」への道を意味する、みっしりと良質なダイヤモンドが連なるデザインは着ける人を華やかに見せてくれるでしょう。
モーブッサンには世代を超えて楽しめる素晴らしいリングが数多くあります。
気になった方は、ぜひ実物を見にお近くの店舗を訪れてみてください。
6.モーブッサンが所属するグランサンクのブランド一覧
グランサンク(Les Grand Cinq)とはフランス語で、パリのヴァンドーム広場を拠点とする5つの宝飾店(ジュエラー)を指します。よく世界五大ジュエラーと混同されますが、あくまでもフランス国内パリの高級宝飾店協会に所属しているカテゴリーであることが相違点といえるでしょう。
グランは「偉大な」、サンクは数字の5を意味しています。1947年に結成されてから現在まで、その功績は高く評価されています。創業はメレリオ・ディ・メレーが1613年と最も古く、1780年のショーメ、1827年のモーブッサン、1858年ブシュロン、1906年ヴァンクリーフ&アーペルと現在も名だたるジュエラーが名を連ねていることに驚きを禁じえまません。
この章ではグランサンクのモーブッサン以外の各ブランドについて解説していきます。
6-1.メレリオ・ディ・メレー(現メレリオ)
メレリオ(Mellerio)は創業から400年以上の歴史を誇る、世界最古のジュエラーとしてその名が語り継がれている名店です。イタリア出身のメレリオ一族は、フランス国内に複数の店舗をかまえ、歴代王室や貴族顧を顧客として商業的に大成功をおさめました。
フランス王妃マリー・アントワネットやナポレオンⅠ世の后、ジョゼフィーヌをはじめとする一族にもジュエリーを納めていたほどです。
フランス革命時には騒乱を避け、スペインのマドリードに支店を立ちあげて商才をいかんなく発揮する手腕は見事といえるでしょう。このスペインで後の皇帝ナポレオンⅢ世の后となるウージェニーとの出会いがメレリオ絶頂期への布石となりました。その後もロスチャイルド家、スペイン王妃や貴族たちといった顧客をつかみ栄華を極めたのです。
ジュエリーの種類はティアラやブレスレット、パリュール(ネックレス、イヤリング、櫛などがセットになったもの)などで、現存する作品は美術的な評価が高く博物館所蔵となっているものもあります。技術的にはダイヤモンドのカット技術を極めたメレリオ・カット(57面体の卵型)があまりにも有名です。後発ジュエラーにメレリオ出身の職人を多く輩出し、ジュエリー業界全体に大きく貢献しました。現在も15代目となるコーム・メレリオが経営の手綱をにぎり躍進をつづけています。
6-2.ショーメ
1780年に宝石商だったマリー・エティエンヌ・ニトが創業。その後、職人や宝石商と経営者を代えながらも、ショーメ(CHAUMET)として1889年から歩みはじめました。先述したメレリオ同様、ナポレオン一族や法王、スウェーデン王室を顧客にもち確たる地位を手にしています。当時の作品の一部はスミソニアン博物館に所蔵されており、目にされた方も多いのではないでしょうか。大きなティアラやブローチ、ドッグネックレス(首全体を覆いかくすようなデザイン)は宝石をふんだんに使い、当時のままの眩い美しさを放っています。
時代の流れをとらえる感性が鋭く上品なデザインは日本人にもファンが多いジュエラーです。またジュエリーはもちろん、時計での評価が高いのも特徴といえます。文字盤にダイヤモンドルースが自由に動くようにセッティングされたレディースウォッチは画期的で美しく、ショーメの代表的なデザインとして人々の記憶に刻まれました。現在も高い製造技術とデザインは進化を遂げています。エナメル加工やレース・螺鈿細工をほどこしてエレガントに表現された文字盤は、もはや芸術の領域といえるでしょう。
ショーメは現在、プロモーションにも力を注いでいて新規顧客の開拓にも余念がありません。特に若年層向けのECサイトが充実していて目を見張るものがあります。さらにSNS広告や芸能人とのタイアップで新たなファンを増やしています。
6-3.ブシュロン
ブシュロン(BOUCHERON)はパリの宝石商フレデリック・ブシュロンが1858年に創業したジュエラーです。織物商の家に生れた彼は14歳で宝石商の見習いとして働き始めます。絹織物に囲まれて育った環境が、その後の彼の作品にも色濃く表れています。貴金属で柔らかな動きやテクスチャーを表現して見せる確かな技術を職人時代に培ったのです。
また職人を大切にして育成に力を尽くしました。1867年に開催されたパリ万博で、展示ブースに作成した職人のネームプレートを置いて敬意を表したのです。職人としての経験から、なされた行動であったことは想像に難くありません。優秀な職人を数多く抱えるブシュロンは時代に応じて柔軟にデザインを変遷させることで成功しています。1880年頃、職人の一人であるボルディンク氏がエングレービング技術(ダイヤモンドに彫刻をほどこしたもの)で花やアラベスク柄を彫刻したネックレスを作りました。さらに時を経てアール・デコ(1910年から1930年頃)の作品は珊瑚やオニキス、ラピスラズリなどの幾何学デザインで注目を集め最も評価が高まります。
商業的にも成功を手にしていた頃、パティアラのマハラジャが直接来店して特別なジュエリーを149点もオーダーしたのは1928年のことでした。ダイヤモンド7,571個とエメラルド1,432個を使ったネックレスはブシュロンの偉業として今も語り継がれています。他にもイギリス王室やロシア皇帝とは、その一族を含めて長きに渡り良好な関係を築きました。初の海外進出はロシアのモスクワだったことからも、その親密ぶりがうかがえます。
1979年、ブシュロンのミューズとして愛らしい黒猫、その名もウラジミール(!)が就任したことはロシアへの敬愛を表しています。色彩のなかで黒はブシュロンのコンセプトカラーとして昔から使われてきました。最新コレクションでは黒衣の礼服に新たな解釈でクリエイションされたスタイリッシュな作品を発表。原点回帰ともいうべきモノトーンスタイルは唯一無二の存在感を放ちます。これからも、さらなる発展が期待できるジュエラーの1つです。
6-4.ヴァン・クリーフ&アーペル
ヴァンクリーフ&アーペル(Van Cleefa&Arpels)は1906年創業でグランサンクのなかでは最も新しいジュエラーです。パリで出会った宝石商の娘エステル・アーペルと宝石細工職人の息子アルフレッド・ヴァンクリーフの結婚から始まり、一族が力を合わせて発展を遂げてきたヴァンクリーフ&アーペル。初期はユニークな作品が多く、実用性のあるジュエリーといった趣です。この時代の女性たちは職業を持つようになり、外出時の必需品を収納できるミノディエール(化粧道具入れ)をヴァンクリーフ&アーペルではジュエリーを用いて作成しています。
そして最大の偉業ともいえる、ミステリーセット(インヴィジブルセッティング)の技法を発表したのが1933年の事でした。宝石をとめる爪を一切見えないようにする技術は現代でも難しく、ヴァンクリーフ&アーペルの独自デザインを極めるきっかけとなります。この技法により宝石の色を純粋に楽しめるデザインが作れるようになりました。商業的に大成功をおさめ、名だたるセレブリティを顧客に持つようになっていきます。
1939年、エジプトのファウジア王女が結婚式で身につけるジュエリー制作を一手に受注して、その地位を盤石にしました。時を同じくして米国へ進出したヴァンクリーフ&アーペルは、バレリーナや妖精、仲睦まじい鳥たちのモチーフジュエリーを世に送りだします。写実的でありながらファンタジックなモチーフたちは、その後の定番として変わらぬ人気を集めています。
1968年にはヴァンクリーフ&アーペルのアイコンとなる、アルハンブラコレクションが発表されます。「ヴァンクリといえばアルハンブラ」日本人にもファンが多く、四つ葉のクローバーモチーフは様々な天然石で展開されるコレクションです。
展覧会への意欲も旺盛であり、開催される世界の主要都市で盛況となっています。日本では2017年に開催され明治期の工芸品との対比がテーマとなりました。明治期に作られた日本の工芸品は超絶技巧として海外での人気が高く、ヴァンクリーフ&アーペル作品と共通する美しさで好評を博しました。近年、技術の継承を目的としたスクールを設立してジュエリーに興味を持つ人が学べる環境整備にも尽力しています。
7.グランサンクと同じくらい名が知れている世界5大ジュエラーのブランド
世界的に人気や知名度を持つ5つのジュエラーです。ティファニー、カルティエ、ブルガリ、ヴァンクリーフ&アーペル、ハリーウィンストンを指していますが、ヴァンクリーフ&アーペルは先述したグランサンクの一つでもあります。
それぞれについて解説していきます。
7-1.ティファニー
米国で1837年にチャールズ・ルイス・ティファニーと友人のジョン・ヤングとで開業したティファニー。最初、彼らはスポーツ競技用のカップに目を付け、銀器職人のジョン・ムーアと専属契約を結びます。これが後に世界のティファニー銀器への布石となりました。豊富な資金力で商業的に成功を収めながら技術を磨きあげ、1878年のパリ万博では銀器部門のグランプリを受賞、同時にジュエリー部門で金メダルを獲得します。また、キンバリー鉱山で採掘された128カラットのカナリアイエローダイヤモンドを購入したことは当時ニュースとして大きく報じられました。このダイヤは世界一有名なダイヤモンドとしてティファニー本店に現在も大切に展示されています。彼らの成功は世界のトップジュエラーとして確実となり、新たな素材探しに情熱を注いでいきます。
技術面ではダイヤモンドを六つ爪で留めるティファニーセッティングを見出します。これはダイヤモンドの輝きを最高に高める技法で当時から画期的でした。現在も婚約指輪に採用されているので目にした方も多いのではないでしょうか。ダイヤモンドのみならず、アクアマリンやエメラルド、ルビーを使った彩り豊かでシンプルなデザインを得意としています。一方、シルバーを使ったオリジナル雑貨やアクセサリーも豊富です。分かりやすくブランドジュエリーを楽しみたい方におすすめです。
7-2.カルティエ
カルティエのアイコンである「トリニティ」は今年ちょうど100周年を迎えます。1924年に発表されてから今日まで、3種類の地金のコンビネーションは無限を意味しています。
フランス人のルイ・フランソワ・カルティエが1847年に創業したジュエラー、カルティエ。一族によって継承されながらプラチナ細工を極めたことが今日の成功に繋がります。プラチナを使うことで軽やかに仕上がり緻密な細工を施せるのです。これは曲線的なガーランド様式(花と葉をつないだ模様)のティアラに採用されました。特に個性を発揮したのがアールデコで、パヴェセッティング(石畳のようにダイヤをちりばめる様式)したダイヤの白に、ルビーやオニキスといった強い色の宝石を合わせた作品は、現在もアンティークとして高値で取引されるほど評価されています。
常に流行の先頭にあり、1930年代からのパンテールシリーズは豹をモチーフとして人気を集め一世を風靡しました。カルティエはジュエリーにとどまらず腕時計に名品が多いのも特徴です。パシャ、タンクなどはブランドとともに広く知られる逸品といえるでしょう。卓越した技術とデザイン力は軽々と時を超えて愛されています。
7-3.ブルガリ
1884年、イタリアのローマにギリシャ人のソティリオ・ボウルガリス(のちに改名してブルガリ)が創業したジュエラーです。当時から地金に大きな色石を複数合わせた豪快なジュエリーを作成していました。その色使いは大胆で宝石のブーケを思わせるものが多く、特有のおおらかさを体現しています。当時の作品はカボションカットを多用する特徴があり、丸みを帯びたフォルムが柔らかな輝きをもたらしてくれます。
近年発表された「ビー・ゼロワン」「ディーバドリーム」コレクションは人気を博し、定番としてブランドを盛り立てています。バッグをはじめとする革製品や時計、香水なども含めたトータルファッションとしてブランドを位置づけ、名品を作り続ける探求心はとどまることを知りません。地金をしっかりと使ったジュエリーは迫力の存在感。身に着けると満ち足りた陶酔へと誘われます。独自のイタリアンスタイルはさらなる発展をとげるでしょう。
最近はチョコレートの販売やホテル業などで経営の多角化に成功をおさめ、目が離せないジュエラーの1つです。
7-4.ヴァン・クリーフ&アーペル
ヴァンクリーフ&アーペルの歴史はグランサンクの章で解説したので、ここでは独自の優れた技術について触れていきます。ヴァンクリーフ&アーペルといえばミステリーセット(表面に爪を見せないセッティング)が有名ですが、それより以前、1920年代にカリブル・カットという技法を採用していました。当時の優れた作品は、この技法から生まれています。デザインを描いてから先に金属枠を作成、後から宝石をカットして留める技法です。
この方法は石を多くカットしなければならないため、コストが上がり複雑なカット技術が求められるのですが、その分デザインに忠実な作品が仕上がります。膨大な手間を惜しまないクラフツマンシップは創業当時から変わらないヴァンクリーフ&アーペルの真骨頂といえるでしょう。現代もその姿勢は変わることなく受け継がれ、ほぼ毎年テーマに沿ったジュエリーコレクションを発表しています。独自モチーフの妖精やバレリーナ、人魚などを精緻に表現できる技術はブランド最大の資産ではないでしょうか。
そんなヴァンクリーフ&アーペルが2012年、ジュエリーと宝飾芸術の学校レコールを創立しました。年齢や性別問わず多くの受講生が集まり学んでいます。惜しみなく技術を伝承する姿勢は他の追随を許さないトップジュエラーの心意気を感じさせます。
7-5.ハリーウィンストン
「キング・オブ・ダイヤモンド」その称号はハリーウィンストンのためにあります。1920年、アメリカ人である彼は第一次世界大戦後に各地へ逃げた欧州王族たちの宝石を大量に買いつけて商売を始めました。名だたる名家の手放した大きな宝石を使ったジュエリーを解体して、新たなカットや研磨を施し販売するという手法で成功をおさめます。この経験から石の大きさにとことんこだわっています。もちろん品質が伴ってこその大きさですが、その価値を世に知らしめた功績は賞賛に値するものです。
1934年に南アフリカで採掘された726カラットのダイヤの原石は彼が購入したことで世界中にニュースとなりました。掘り当てた鉱夫に敬意を表して「ヨンカー」と名付けられたダイヤモンドは、自らプロモーションするほど彼に喜びと満足を与えたのです。1938年、ブラジルでさらに大きい726.6カラットのダイヤ「ヴァルガス」がみつかると、すぐさま大陸横断する情熱でライバルを蹴散らし獲得に成功します。1953年には155カラット、1976年に204カラット、同年に342カラット、2013年に101・73カラットと伝説的な原石を獲得しつづけていきます。
その多くはペアシェイプ(洋ナシ形)カットを施され、国内外のセレブリティに販売されました。またハリウッドスターへの貸し出しはハリーウィンストンが始め、現在もプロモーションとして成功しています。日本では婚約指輪の候補に必ずあがるジュエラーとして定着したイメージです。
8.グランサンク愛用の著名人・芸能人5選
ここからは話題をかえて、グランサンク5大ジュエラーを愛した著名人や芸能人について解説していきます。
8-1.【モーブッサン】マレーネ・ディートリッヒ
往年の大女優、マレーネ・ディートリッヒが愛用したジュエリーはモーブッサンでした。
ドイツの貴族階級だった20代の彼女は戦火を逃れ、アメリカに渡り舞台を中心に女優として活動を本格化させます。映画「モロッコ」でゲイリー・クーパーと共演を果たし、瞬く間にハリウッドスターの階段を駆け上っていきます。1939年、映画「砂塵」はジェームズ・スチュワートとの共演で注目され、彼女の代表作となりました。今でも名作西部劇として名高い映画の1つといわれています。
端正な顔立ちと脚線美で人気をさらった彼女は多忙を極めるスケジュールのなかで、ちょうどニューヨークへ拠点を構えたばかりのモーブッサンと出会います。自らオーダーしたエメラルドとダイヤモンドのブレスレットをいたく気に入ったのは、自宅からモーブッサンまで直通電話を引いたことからもうかがい知れるでしょう。その時のエメラルドは、なんと37カラットという大きさでした。祖国への思いやスキャンダルで心乱れても、美しいジュエリーの輝きが一瞬、彼女の痛みを癒したのかもしれません。その後もモーブッサンのジュエリーを愛し続けた彼女は、80歳近くまで演じ続け生涯女優を貫き通しました。
8-2.【ヴァンクリーフ&アーペル】グレース・ケリー
ヴァンクリーフ&アーペルのジュエリーを愛用する芸能人は多いですが、なかでも有名なのはグレース・ケリーでしょう。
女優としてヒッチコック監督に見出されたグレース・ケリー。
エレガントな美貌はもちろん、名作映画「裏窓」「ダイヤルMを廻せ」では演技力も高く評価されています。1955年の「喝采」では見事にアカデミー賞主演女優賞を獲得しました。
ハリウッド女優として活躍したのち、モナコ大公妃となり、若くして亡くなるというドラマチックな人生は人々の記憶に深く刻まれました。
1956年、モナコ大公レーニエ三世との結婚でウエディングギフトとして贈られたジュエリー(指輪、ブレスレット、ネックレス)は、全てヴァンクリーフ&アーペルが受注したものです。「モナコ公室御用達」の称号をヴァンクリーフ&アーペルが授かったのは、この数か月後のことでした。持ち主を亡くし70年近く経った現在、グレースコレクションとしてモナコ公国で大切に保管されています。
8-3.【メレリオ】マリー・アントワネット
マリー・アントワネットがメレリオからカメオのブレスレットを購入したのは1780年のことでした。メレリオは当時すでに成功をおさめたジュエラーでしたが、このことをきっかけにマリー・アントワネット御用達となります。当時のファッションアイコンであった彼女から寵愛を得たことで、トップジュエラーとしての地位を確立しました。やがて悲劇的な最期を迎えるフランス王室をメレリオは静かに見届けたのです。
実は現在、このブレスレットがメレリオに戻ってきていることは意外と知られていないようです。それは2014年にオークションで競り落とされた品物で、その素性を確認したところ記録上の最終所有者であるカステルバジャック男爵夫人の出品であったことが確認されました。これを知ったメレリオがブレスレットを買い取り、230年以上の時を経て、その深い縁を再確認したのです。日本では阪急うめだ本店で特別展示会を催し、一般に公開され話題となりました。
8-4.【ショーメ】皇后ジョゼフィーヌ
皇帝ナポレオン一世の后、ジョゼフィーヌはショーメにとって特別な存在です。ショーメがジュエラーとして躍進するチャンスを得たのは、1805年にミラノで行われた戴冠式のティアラでした。この豪華なティアラを気に入った皇后ジョゼフィーヌの強い要望で御用達となります。
独自のスタイルを生みだす彼女からのスペシャルオーダーに応え、そのインスピレーションを具現化していくショーメ。自由を愛するがゆえ、奔放なイメージがあるジョゼフィーヌですが、そのセンスは多くの女性たちに歓迎されるものでした。ウエストを絞めつけるコルセットから女性たちを解放して、ゆるやかなドレスを流行らせたのはジョゼフィーヌです。
そんな彼女のセンスは200年の時を経ても色あせず、ショーメのコレクションを牽引し続けています。最新のジョゼフィーヌコレクションは、自由に重ね付けを楽しめるラインナップで現代の私たちを魅了しています。
8-5.【ブシュロン】エヴァ・ガードナー
エヴァ・ガードナーは、唯一ブシュロンがオマージュを捧げ、その名を冠したAVAコレクションを作成したハリウッド女優です。ハリウッドがハリウッドらしかった時代に圧倒的な美貌を放つ女優、エヴァ・ガードナーは映画界の真ん中を闊歩していました。20歳でのデビューから出演した映画は30本を超え、なかでも1952年の「モガンボ」での演技は高く評価されてアカデミー賞候補となります。1976年「青い鳥」で共演したエリザベス・テイラーが、その美しさを称えるほど彼女は突出した存在でした。1990年に67歳の生涯を閉じるまで仕事と恋に生きた往年の女優は、3度の結婚と離婚を繰り返しています。彼女の肉感的な美しさはブシュロンの美意識を刺激するものだったのではないでしょうか。このコレクションは外枠とセンターに数ミリの空間をもうけて、主役となる宝石が浮かんでいるようにセッティングされます。まるで憧れと羨望のまなざしでスターを囲むファンのような趣を感じさせます。
9.「グランサンク」モーブッサンはアンティークも人気!
ここからは、またモーブッサンに戻りアンティークについて解説していきます。これまで述べたようにモーブッサンの歴史は長く、その作品は膨大な数にのぼります。その中でも特に19世紀後半以降に作られたアンティーク品の人気は高いため、オークションでの取引が盛んに行われています。クリスティーズやサザビーズといった海外オークションにとどまらず、ネットで取引が完結するスタイルも定着してきました。とはいえ、真贋を見極めるのは一定の経験値が必要となるので敷居が高く感じられるかもしれません。
フランスのアンティークジュエリーを見極める1つの目安として、刻印(ホールマーク)の存在を確認することがポイントになります。これはジュエリー大国フランスが誇る制度として確立しています。国をあげて管理しているため、ある程度信用できるといえるでしょう。非常に種類が多く、それを網羅した専門書があるほどです。刻印で判明するのは、そのジュエリーの貴金属の種類や金位(18金以上である証)で、右向きの鷲の頭のデザインに代表されるものです。もちろん刻印が全てでは無いものの、気に入ったモーブッサンのアンティークジュエリーがある方は参考にしてみてください。
「アンティークほどではないけど最近のコレクションをお得に売買したい」そんな方には中古市場もおすすめです。日本国内に状態の良いモーブッサンジュエリーや時計が流通しているので、過去のコレクションが手に入らない時に利用してみてはいかがでしょうか。
【まとめ】モーブッサンは信頼できる老舗ジュエラー
ここまでモーブッサンを中心にグランサンクや世界5大ジュエラーの意味、それぞれの歴史について解説してきました。
グランサンクのモーブッサンは、長い歴史に裏付けられた信頼感と独自のスタイルが際立つ老舗ジュエラーです。
お気に入りのジュエリーを自ら買いたい方には特におすすめのブランドといえるでしょう。
身につけると幸せな気分になれる、そんな素敵なジュエリーとの出会いの参考にしてみてください。