2023年7月12日
【かつてはロレックスを上回るシェア】エベルとは?歴史や魅力を徹底解説
時計
創業100年を超えるブランド”エベル”をご存知でしょうか。現在の日本での知名度はそれほど高くありませんが、かつてはロレックスを超えるシェアとなったほど世界中で愛されたブランドです。一時は買収など経営難に陥ったものの、再び新作を発表するなど立て直しに成功しています。この記事ではエベルの歴史、魅力、代表シリーズとおすすめモデルについてまとめます。
1.エベルの歴史
1-1.1911年ユージン・ブルムとアリス・レヴィによって創業
エベルは時計の聖地スイス・ラ・ショー・ド・フォンで創業しました。ブランド名のEBELとは、創業者のユージン・ブルムとアリス・レヴィの夫婦で、二人の名前から頭文字をとり(Eugene Blum Et Levy:ユージン・ブルムとレヴィ)名付けられました。
ユージンは精度の高さや品質の向上などの技術面、アリスはデザイン的な美しさを追求しました。ほとんどのブランドが男性創業者の中、男女それぞれの持ち味を活かし婦人用のジュエリーウォッチから男性用の実用ドレスウォッチまで、幅広く開発を手がけました。
懐中時計が主流の中でいち早く腕時計に着目し、1912年に発表。1914年にはスイス・ベルンでのスイス博覧会でリングウォッチが金メダルを受賞しました。さらに1925年パリの装飾芸術博覧会ではグランプリを獲得しました。
1929年に夫婦の息子チャールズを招きました。彼はエベルの時計を高級品として販売の拡大を進めるために品質・精度の追求を推し進めました。独自の精度測定装置の開発やスイスクロノメーター(COSC)の基準強化に繋がる時計技術検定(CTM)の制定を進めるなど、自社だけでなく時計業界全体への影響力も持っていました。
第二次世界大戦では高い精度を信頼され、英国陸軍からの依頼で軍用時計の製造を行いました。軍からの依頼があることは信頼性の証でもあり、戦後はヨーロッパに留まらず世界的に高い評価となるブランドに成長しました。
1-2.1970年創業者の孫にあたるピエール・アラン・ブルム入社で大きく発展
1970年、創業者の孫にあたるピエールが入社。彼の入社によって、エベルは大きな発展と衰退を経験することとなります。1977年にケースとブレスレットが一体化したスポーツクラシックシリーズを発表。オーバルな六角形ケースからスムースにブレスレットへ移るシルエットと流れるような波状のブレスレットは今日でもエベルのアイコン的デザインとなっています。
1980年、現在でも使われている「時の建築家」のスローガンを示しました。ベルーガ、1911シリーズもこの頃に発表され、今でもエベルを代表するシリーズの一つとなっています。1984年にはゼニス社の傑作ムーブメント”エル・プリメロ”をベースに永久カレンダークロノグラフ搭載モデルを発表し話題となりました。
ピエールの手腕によってエベルは大きく成長を遂げ、一時はロレックスを上回るシェアを獲得していたと言われています。1986年、ブランド75周年記念として、ラ・ショー・ド・フォンのヴィラ・トゥルクはエベル・ハウスとして一般公開されており、スイス時計の歴史を学ぶ上で重要な役割を果たしています。
1-3.1990年代後半LVMHグループ傘下に
世界で10本の指に入るほどのビッグブランドに成長させたのはピエールの手腕ですが、没落させたのもまたピエールによるものでした。投機に傾倒したことで1990年頃に株式で約1億ドルの損失を出し、ブランドは一気に窮地に立たされました。
それまで家族経営を貫いていたエベルですが、これを理由に中東の投資会社へ売却されました。エベルはフランスとドイツに大きなシェアをもっていたことで1990年代後半の時計業界再編の標的となり、リシュモングループとLVMHグループの争奪戦ののち、LVMH傘下となりました。
しかし買収前のスタッフを追い出しLVMHから送られた首脳陣が手がけた新シリーズは、それまでのエベルの時計とは似て非なるもの。品質の低下、デザインの低迷を招いたことで、シェアを大きく落とすこととなりました。
1-4.2004年モバード・コンコルドグループの傘下に
2000年頃からLVMHグループは売却を検討。2003年にアメリカ一大資本のモバードグループへ売却されました。ブランドを離れざるを得なかった旧来のスタッフを呼び戻し、翌年2004年に原点回帰と宣言し、再スタートを切りました。
元々自社製ムーブメントの技術の高さに定評のあったエベルらしい1911のムーブメントを使用した1911 BTR(ビヨンドザルーツ)や、全盛期のエベルを彷彿とさせる雰囲気をもつエベルクラシック、エベルウェーブの発表によって、かつての輝きを取り戻しつつあります。
現在ではプロサッカーチームのドイツ・バイエルンミュンヘンやイギリス・アーセナルの公式スポンサーを務めるなど、知名度の回復にも務めています。
2.エベルの魅力
2-1.古典的な純スイス時計ながら独特の世界観をもつ
エベルの時計は歴史も長く伝統的なデザインばかりですが、独特の世界観が特徴です。いわゆるクラシックウォッチというと再スタートに発表された1911、エベルクラシック100くらいで、シンプルながら他のブランドとは一味違うデザインです。オーバルなケースデザインが特徴のベルーガ、緩やかな六角形ケースに流麗なブレスレットが特徴のウェーブなど、独特ながら突飛でないデザインは人気を博しました。
エベルは夫婦で創業したブランドで、夫のユージンが品質をアリスがデザインと分業していたため、エベルの時計は女性目線でデザインされていたことが理由の一つと考えられます。比較的似たデザインで展開されることの多いビッグブランドに対し、エベルは他ブランドにはない世界観を見せてくれる魅力があります。
2-2.自社製ムーブメント、複雑系に定評のある高い技術
エベルは技術の高さでも定評があり、特に自社製ムーブメントの評価が高いブランドでした。1984年に発表された永久カレンダークロノグラフはゼニス社の名機エル・プリメロをベースにしたもので、時計愛好家からの注目を集めました。
1984年から1990年まではエル・プリメロをベースに自社製品を発表していましたが、実はエル・プリメロを使うこなすブランドは当時ほとんどおらず、ロレックスがコスモグラフデイトナに採用する1988年まではゼニス社もあまり活用できずにいました。エベルは他ブランドに先駆けて画期的で優れた機構をもつエル・プリメロのスペックの高さに気付いていました。1990半ばには使用するムーブメントをレマニア社製に変更、新たに自社製ムーブメントの開発を行っています。
1911シリーズの一部には自社製ムーブメントを採用しており、ブランド100周年記念モデルのクロノグラフには自社製ムーブメントCal.137を搭載し、500本限定モデルとして発表しています。
2-3.全盛期にはロレックスを超えるシェアとなった歴史
ピエールが入社し、スポーツクラシックを発表した1977年頃からはエベルは最盛期を迎えました。1984年の永久カレンダークロノグラフの発表、1986年のヴィラ・トゥルクのゲストハウスなど、世界的に注目を集めました。
エベルは世界的に販売数量を伸ばし、特にドイツ・フランスについては一時はロレックスを超えるシェアとなったことで知られています。ロレックスは現在では高級時計全体の30%を超えるシェアで世界トップの販売数量を誇るブランドです。当時のロレックスのシェアは不明ですが、エベルの勢いは凄まじく他のブランドの比にならない成長を遂げていたと言われています。再スタートを切ったエベルが再びロレックスのシェアを超えるべく開発を続けていると考えると、今後のエベルの動向が楽しみです。
2-4.ラ・ショー・ド・フォンにあるヴィラ・トゥルクのゲストハウス
エベル創業75周年の1986年にヴィラ・トゥルクと呼ばれる建物を購入したことで話題となりました。ヴィラ・トゥルクとはスイスの有名な建築家で、バウハウスの巨匠としても知られたル・コルビジェが手がけたとされる有名な建築物でした。エベルはこれを購入し、ゲストハウスとして開放することで、時の建築家としてのモットーやエベル自身のPR活動に活かしています。
ラ・ショー・ド・フォンは時計の聖地としてだけでなく、建築とアートの宝庫としても有名。バウハウスだけでなく、アールヌーヴォーなど様々な様式の建物が見られます。ヴィラ・トゥルクは開放的な設計や緩やかな曲線など、エベルの時計のデザインに共通する造形美となっています。
3.エベルの代表シリーズ7選
3-1.スポーツクラシック(ウェーブ)
1977年に発表され、エベルを代表するシリーズとなったスポーツクラシックは、後にウェーブ、エベルクラシックへと名前を変えていきました。ケースとブレスレットが一体化し、5点のビス留めベゼルやケースからラグへの緩やかなカーブなど、発表当時にトレンドにあったスポーツラグジュアリーの世界観だったこともあり、人気を博しました。
当シリーズを語るうえで欠かせないのがウェーブ状のブレスレットです。機能を複数搭載せずシンプルに仕上げた文字盤とエレガントでしなやかな着け心地のブレスレットがマッチしています。LVMHに経営権が移った時期にはドレスウェーブシリーズが世界観を継承しましたが、スポーツ感が強まったためか不発。再度モバードグループ加入で原点回帰した際にオリジナルモデルに忠実なクラシックシリーズとして再スタートしています。
3-2.エベルクラシック100
エベルクラシック100は2011年にブランドが100周年を迎えた際に発表されました。極めてシンプルな3針モデルで、シルバーのリーフ針とブルースチールの秒針、3時位置の小窓で日付表示といった原点回帰らしいデザインです。王道ドレスウォッチのデザインで、創業当時のロゴを使用したのも創業期の熱意を忘れないとする思いが込められています。
未だ発表されたモデルが少ないシリーズですが、王道のクラシックスタイルがこれまで展開されていなかったことと、再スタートに際しこれからモデル数が増えていくのではないかと考えられます。
3-3.エベルベルーガ
ベルーガはロシア語のシロイルカが由来となっています。シロイルカのもつ緩やかな曲線や艶やかな雰囲気をもつデザインになっており、ケース形状はラウンド、トノー、スクエアと幅引く展開されています。ケース形状は複数ありますが、共通するのはオーバルなデザインで、一体化されたケースとラグなど直線感のないデザインにまとまっています。
レディースウォッチでの展開のため、機能性ではなく世界観の見せ方に重きが置かれています。機能は多くても3針+日付表示で、2針が中心です。ベゼル、インデックスへのダイヤモンドセットやエナメル文字盤など、艶やかでエレガントな雰囲気と独特のケース形状がベルーガのもつ個性となっています。
3-4.ブラジリア
ブラジリアはエベル唯一のスクエアケースが特徴的なシリーズです。デザインは比較的大味でフルのローマンインデックスかバーインデックスのどちらかとなっています。細長い長方形ケースの3針モデルと太目のケース形状のクロノグラフ付きとなる2種類に分かれています。
3針の長方形ケースはローマンインデックスがデザインの大部分を占めるためクラシックな印象で、太目のクロノグラフは白、黒ベースにインダイヤルの針は赤を採用しスポーティーな印象。クオーツ、機械式の両方が展開されています。また、レディースウォッチとしてダイヤモンドが散りばめられた華やかなモデルも展開されています。
3-5.1911
1911はブランドの創業年にちなんで名付けられたシリーズで、スポーツ・エレガントのテイストが主流の1980年代に発表されました。六角形ケース、ビス留めベゼルといったエベルのアイコニックなデザインに、楔形インデックスに文字盤に複雑に刻まれたギョーシェといったクラシックなドレスウォッチのデザインが上手くミックスされています。
ディスカバリーやBTR(Beyond The Roots)が発表されてからはスポーティーなテイストが追加され、さらに現代的に。エベル流の懐古的なモデルで自社製ムーブメントを搭載した1911とディスカバリーとBTRのスポーツモデルのパターンが楽しめるようになりました。
3-6.エックスワン
エックスワンは2012年に発表されたスポーツラグジュアリーの雰囲気をもったシリーズです。ケースの形状に緩やかなカーブで沿うようなラグとリューズの外周への装飾が特徴的です。レディースモデルの多くはダイヤモンドがセットされており、華やかな印象に仕上がっています。
メンズモデルとしても展開されており、刻みのついたベゼルやオールブラウン、オールブラックのカラーリングなど、ハードな印象に仕上がったモデルが特徴的です。ケースサイズに対してラグ幅が狭く細身な印象になるため、細身でエレガントなデザインにまとまっています。
3-7.オンド
オンドは2011年に女性用として発表されたシリーズです。エベルのアイコン的存在となったウェーブよりも丸みが強いシルエットで、ケース形状に可愛らしさが感じられます。3針に細身の剣針の組み合わせにレイルウェイやインデックスへのダイヤモンドなど、バリエーション豊かにエレガントさを演出しています。
通常リューズはリューズの先端に丸みを帯びたジュエリーが埋め込まれていますが、オンドはリューズの外周位置にダイヤモンドがセットされています。さりげなく、しかしハッキリとわかるようにラグジュアリーな雰囲気を主張しています。中にはクロノグラフ搭載モデルもありますが、リューズ・プッシュボタンの形状が控えめになっており、ケースの丸いシルエットを崩さないようなデザインになっています。
4.エベルのおすすめモデル7選
4-1.1911 ディスカバリー Ref.9750L62/63B60
1911 ディスカバリー Ref.9750L62/63B60はブランドの創業年を由来とする伝統的なデザインが中心のシリーズです。曜日、日付、クロノグラフ、タキメーターを搭載した多機能モデルで、ねじ込みリューズ・プッシュボタンを採用し100m防水と使いやすい機能が揃っています。
緩やかな六角形ケースとビス留めベゼルを採用した伝統的なスポーツラグジュアリーデザインがベースになっており、白文字盤にインダイヤルの縁を黒にしたスポーティーな印象が強めのデザインです。文字盤いっぱいにロゴやインデックスが配置されており、男性らしいがっちりとした雰囲気をもった一本です。
4-2.クラシックヘキサゴンレギュレーター Ref.9300F61/56335165
クラシックヘキサゴンレギュレーター Ref.9300F61/56335165は王道のクラシックデザインのレギュレーターモデルです。時分針、秒がそれぞれ別軸で動作することで針が被ってしまうことがなく視認性に優れた機構として、かつて教会の時計などにも採用されていました。
Ref.9300F61/56335165はエベルのクラシックモデルの特徴的な緩やかな六角形ケースに古典的なレギュレーターを組み合わせています。鋭いドーフィン針、5つのビス留めベゼル、緩やかな六角形ケースと伝統的でありながらエベルらしい独特の雰囲気をもったモデルです。
4-3.ブラジリアクロノグラフ Ref.9126M52/164WC35601XS
ブラジリアクロノグラフ Ref.9126M52/164WC35601XSはエベル唯一のスクエアケースシリーズのクロノグラフモデルです。ケースサイズ48mm×36mmと太目のスクエアケースで、がっしりした堅牢性のあるサイズ感です。
ベースは白と黒にインダイヤルの針と目盛りが赤の3色で構成されており、軽やかでスポーティーな印象に仕上がっています。プッシュボタンはオーバルな三角形になっているのがエベルらしい独特なデザインセンスです。
4-4.ウェーブ Ref.1216200
ウェーブ Ref.1216200はエベルを代表するシリーズであるウェーブの代表的なデザインが特徴です。中三針と日付のみで装飾を排除したシンプルさですが、シリーズ名にもなった流麗なブレスレットが全体の雰囲気をエレガントにしています。
ケースから流れるようにラグに移行するデザインは往年のパテックフィリップを思わせる美しさがあり、ラグ幅が広く着用感が良いのも特徴です。40mmケースに日常生活防水が付いたクオーツモデルなので、古典的な機械式時計の美しさがクオーツで使いやすく仕上がっている良作です。
4-5.ベルーガ Ref.1215855
ベルーガ Ref.1215855はシロイルカに由来する滑らかな曲線美をもつシリーズです。ケースとラグが一体化したラウンドモデルで、アクセサリーのような美しさをもっています。上のラグから下のラグまでとインデックスとしての両方にダイヤモンドがセットされており、計60ケのダイヤモンドが使われています。贅沢で華やかなデザインに仕上がっています。
装飾を排除し時分針だけで機能はシンプル。文字盤はマザーオブパールを採用しており、光の当て方によって表情を変える美しさを堪能できます。クオーツ、50m防水と使いやすく、エレガントな美しさに特化したモデルです。
4-6.エベル100 Ref.1216088
エベル100 Ref.1216088はブランド100周年を迎えた際に展開されたシリーズです。王道・スタンダードな中三針+日付表示モデルで、いい意味でクセのない時計です。秒針はブルースチールのため視認性が高く、ミニッツレールまでの長さぴったりに設定されています。分針も同様に長さぴったりで、地味ながら品質の高さを感じさせます。
時分針は存在感のあるリーフ針を採用しており、シンプルな文字盤に映えるデザインです。放射状に光るサンレイ文字盤に植字のインデックスと、原点回帰を宣言したエベルの今後に相応しい真面目な一本です。
4-7.エックスワン Ref.1216156
エックスワン Ref.1216156はハードな印象のブラックカラーが印象的な一本です。ブラックセラミック製のケースとブレスレット、文字盤もブラックに統一されています。ステンレスベゼルを埋めつくすほどにダイヤモンドがセットされており、インパクトのあるデザインに仕上がっています。
インデックスにもダイヤモンドがセットされています。12、4、8だけのアラビアインデックスが三角形でバランスが取れており、珍しい組み合わせです。ギョーシェが刻まれた黒文字盤にダイヤモンドインデックス、ベゼルいっぱいのダイヤモンドとオールブラックの外装とハードな印象の中にエレガンスが仕込まれています。
5.【かつてはロレックスを上回るシェア】エベル
エベルの歴史、魅力、代表シリーズと人気モデルについてまとめました。エベルはかつてロレックスを超えるシェアを持ちながらも、経営権の移転によって人気に陰りが出てしまいましたが、現在では全盛期のスタッフを呼び戻し原点回帰を掲げ再起を図っています。エベルを扱う時計店はそう多くないのですが、今は比較的マイナーな部類のブランドに入るため、エベルを扱う時計店はかなりの時計好きが揃っているかもしれません。もし見かけたらぜひ一度手に取ってみてください。