2024年9月07日
【レトログラードの魔術師】ピエール・クンツとは?歴史や魅力を徹底解説
独立時計師の中でも、かのフランクミュラーに認められた時計師は一握りでしょう。ピエール・クンツは元々パテック・フィリップなどの大手ブランドで複雑系モデルを手掛け、フランクミュラーに見出されたことでウォッチランド専任の技術者となりました。のちに自らのブランドを立ち上げるにいたり、独自の感性と高い技術で時計愛好家たちの注目を集めています。この記事ではピエール・クンツの歴史、魅力、代表シリーズ、おすすめのモデルについてまとめました。
目次
1 【レトログラードの魔術師】ピエール・クンツの歴史
1-1 1951年スイスのベルンに生まれる
ピエール・クンツは1959年スイスのベルンに生まれました。幼い頃から高度な機械式時計に強く惹かれており、機械式時計の聖地ヴァレ・ド・ジューの時計学校でウォッチメイキングを学びました。
おそらく首席、準ずるレベルで卒業したピエール・クンツはパテック・フィリップなどの超名門ブランドでトゥールビヨンやミニッツリピーターといった複雑系を手掛けました。
1-2 1997年フランクミュラーの工房で働き始める
一時は名高いヴィクトリアン・ピゲの工房で働き、アンティーククロックの修復ビジネスを手掛けることもあったようです。最終的には彼の希望したグランドコンプリケーションなどの複雑系技術の構築に復帰することに成功しました。
その後独立時計師、今や4大コングロマリットを率いるフランクミュラーに才能を見出され、1997年からフランクミュラーの専属の技術者に迎え入れられました。彼のつくる時計は多彩なレトログラードが特徴的で、間もなくオリジナルのブランドを立ち上げてみないかとオファーがあったようです。
1-3 2002年ウォッチランドグループで自身のブランドを立ち上げる
オファーを受けて自身のブランドを立ち上げたピエール・クンツはウォッチランドグループの後ろ盾もあり、瞬く間に時計愛好家の目に止まることとなりました。
クラシックでいて独特な感性によるデザインと卓越した技術による多彩なレトログラードの表現は唯一無二であり、話題となりました。2004年に発表されたパピヨンは向かい合わせにレトログラードを配置した特徴的な文字盤で、フランク ミュラーをもってして「こんなに美しい時計を見たのは初めてだ」と言わしめました。
その後も様々なモデルを開発しています。独特な動きをするヴィルヴォルタント・レトログラードや、まるでインジケーターのようにバーで時刻を表現するヴェルティゴなど、類を見ないデザインはピエール・クンツの真骨頂といえるでしょう。
2 【レトログラードの魔術師】ピエール・クンツの魅力
2-1 フランクミュラーに見染められた独立時計師
ウォッチランドグループに引き抜かれる形で技術者として働くこととなったピエール・クンツですが、当時はいち時計師だったようです。フランクミュラーに見出されたことで最終的には自身のブランドを立ち上げるまでに至る高い技術とセンスは、なかなか理解されにくいものだったのかもしれません。
しかしレトログラードを向かい合わせにしたパピヨンは、かのフランクミュラーを唸らせたと言われています。ウォッチランドグループ内で立ち上げたブランドのため厳密には独立時計師とは言い難いのですが、独立時計師並みの独特なセンスと高い技術の時計たちを次々と作り続ける姿は、フランクミュラーに見出されるだけのものがあると言わざるを得ません。
2-2 すべてのモデルにレトログラードを搭載する特徴的なつくり
全てのピエール・クンツの時計にはレトログラードを搭載しています。あらゆる機能をレトログラードで表現する研究を重ね、それぞれが毎回違う役割を持てるようにデザインされ、単なる扇形で動く針で終わらない面白さを追求しています。
トリプルレトログラードではリレー式に秒針表示したり、そもそも扇形に表示しないヴィルヴォルタント・レトログラード、向かい合わせに配置したパピヨンなど、レトログラードを使っての様々な表現方法を開発しています。まさにレトログラードの魔術師といえる多彩なデザインはどれも直感的で美しく、ピエール・クンツのアイデンティティといえるでしょう。
2-3 クラシックで複雑、それでいて最新の感性をもつデザイン
全てのピエール・クンツの時計にはレトログラードを搭載しているため、全体的にクラシックで複雑なデザインに見えるモデルが多いです。特に複数のレトログラードを搭載したモデルはとりわけ複雑に見えますが、その実シンプルな機能ばかりでユーザーライクな機構でもあります。
クラシックなだけではなく最新の感性をもっているのも特徴で、ヴィルヴォルタント・レトログラードやパピヨンはこれまでにない機構を開発しており、スポーツコレクションとレディースコレクションは全体のデザインやカラーリングにはトレンドが反映されています。
3 【レトログラードの魔術師】ピエール・クンツの代表シリーズ
3-1 レトログラードセコンド
ピエール・クンツは全ての時計にレトログラード表示を搭載している点が特徴的ですが、レトログラードセコンドは最もシンプルで実用的に使っているコレクションです。ベースのモデルは6時位置に30秒のレトログラード表示を配置し、0秒から30秒までを示した針が瞬時に0まで戻るフライバックとなっています。
これを基本としつつカレンダー表示やムーンフェイズなどの表示機能を付与した様々なモデルが展開されており、後に紹介するコンプリケーションレトログラードとは、多機能のレトログラードセコンドか複雑機構のコンプリケーションかが境になっています。
また、ピエール・クンツの時計はシンメトリーデザインにもこだわっており、様々な位置で表示するレトログラードを上手くシンメトリーに見せています。クラシックなデザインにまとめられており、ローマンインデックスやギョーシェなどが度々採用されています。
3-2 コンプリケーションレトログラード
ピエール・クンツを代表するレトログラード機構を余すところなく使ったコンプリケーション。このコレクションでは単純な秒針表示としてではなく、他にない機構や使い方をしています。
例えばヴィルヴォルタント・レトログラードは6時位置のレトログラードが数字の6のような軌道をとりながら回り、60秒に達すると、瞬時に逆回転しながらフライバックして0に戻ります。世界初の扇形ではないレトログラードです。
トリプルレトログラードセコンドはレトログラード3つが連なるようにリレー式で秒針表示を行います。0~20秒、21~40秒、41~60秒を示すレトログラードが別で備わっており、バトンタッチするように秒表示します。機能としてはシンプルですが、レトログラードを3つ搭載する複雑な機構により実現しています。
3-3 パピヨン
ピエール・クンツのファーストコレクションの一つとして脚光を浴びたパピヨンは、時刻表示に革命を起こしたと言われるモデルです。時間と分をレトログラードで表示しますが、ギョーシェを施した2つのレトログラードを左右対称に配置し、まるで蝶のように見えることでパピヨンと名付けられています。ムーンフェイズを加えることで黄金比でデザインされており、フランクミュラーにこんなに美しい時計を見たのは初めてだと言わしめたとされています。
派生モデルとして、タヒチムーンや限定モデルのロカが展開されています。文字盤をスケルトン化したタヒチムーンとオーバルなケース形状が特徴のロカは、パピヨンのインパクトある文字盤に負けない魅力をもった独自の世界観をもつピエール・クンツらしいコレクションです。
3-4 キュピドン
愛をテーマに開発されたキュピドンとは、フランス語でキューピッドのことです。文字盤に描いたインパクトあるハート上で、トリプルレトログラードで使用したリレー式の秒針表示を搭載しています。ハートはモデルによってスケルトンやダイヤモンド、白蝶貝などバリエーション豊かにデザインされています。
ケースサイドのコインエッジやギョーシェを中心としたクラシックなデザインを活かしつつ、ベゼルへのパヴェダイヤやパステルカラーでの展開により女性向けに特に意識してデザインされています。
3-5 スポーツコレクション
ピエール・クンツの感性と技術を活かしたスポーツコレクション。例えばクロノグラフモデルは、積算計をレトログラードで表現しています。前述のパピヨンのように向かい合わせに配置した積算計は視認性が高いだけではなく、クラシックで複雑な印象を与えるデザインパーツとしての役割もあります。
スプリット ダイバーはピエールクンツ唯一のダイバーズウオッチで、通常の時間と分表示、回転ディスクによる秒表示に加え、水深計がケース左側に装着されています。ケースサイドに設置された水深計は、サファイヤガラスのチューブに収められ、水深80メートルまでの深度を表示することが可能です。実際にはそこまで深く潜れる防水性ではないので、日常使いとしてギミックを楽しむのがお勧めです。
3-6 レディースコレクション
ピエール・クンツが展開しているレディースコレクションは、ピエール・クンツの世界観を女性にも楽しんでほしいとの願いで作られました。レトログラードセコンドをサイズダウンしつつクオーツ化、パステルカラーの文字盤にすることで可愛らしい雰囲気へと調整されました。それでいてピエール・クンツの世界観は保っており、レトログラード表示とギョーシェによるクラシックで複雑な雰囲気を纏っています。
4 【レトログラードの魔術師】ピエール・クンツのおすすめモデル5選
4-1 トリプルレトログラードセコンド Ref.PKB002STR
正方形のスクエアケースに3つのレトログラードを配置して秒針としたモデルです。時分針は通常通りですが、秒針は2時位置のレトログラードから始まり、20秒まで進んだら6時位置のレトログラードがスタート、40秒まで進んだら10時位置のレトログラードで60秒までカウントして一周するリレー式の機構です。
ケースサイドのコインエッジやローマンインデックスなどクラシックな要素が多く散りばめられており、王道のデザインを踏襲しています。複雑そうに見えてとてもシンプルな機能な機構が遊び心を感じさせます。
4-2 スモールコレクション ロンド レトログラード セコンドアンドデイト Ref.PKJ012 SRD
一見通常の時計のように見えますが、独特のセンスをもつピエールクンツらしいモデルです。時分針は6時位置の小さなダイヤルで、12時位置のレトログラードで秒針表示を行います。文字盤外周を利用したポインターデイトで、先端がハート形状の針で表示します。
ケースサイドのコインエッジやレトログラードのギョーシェなど王道のクラシックデザインは健在で、変化球といえる文字盤レイアウトですが全体の雰囲気はクラシックにまとまっています。
4-3 パピヨンタヒチムーン Ref.A014HMRL
ピエール・クンツの代表作パピヨンのタヒチムーンモデル。文字盤がスケルトン化されているため、ベールに包まれていたレトログラードの機構を鑑賞できます。作動する瞬間のカタツムリ型のカムなど、他にない機構を見ることができる希少なモデルです。
文字盤がスケルトンなだけではなく、時分針にも繊細なスケルトン針を採用することで時計全体で透明感を表現しており、メカニカルでいながらファンタジーな雰囲気をもっています。ムーンフェイズにはタヒチ産の蝶貝をあしらい、夜空と星を表現した美しいモデルです。
4-4 キュピドン Ref.M102STR
愛のシンボルであるハートからインスピレーションを得てデザインされたキュピドン。文字盤のほとんどを覆うハートがインパクトあるデザインに仕上がっています。バリエーション豊かですが、この個体はハート型にスケルトン化した文字盤からムーブメントを鑑賞できるようになっており、女性用だけでなく男性向けとしても好まれる印象です。
ハートの中にはリレー式のレトログラード秒針が3つ備えてあり、先端が大きなスペード針によって視認性も確保されています。文字盤には集中線のようなギョーシェを施しハートがさらに強調されており、可愛さにスタイリッシュな雰囲気もある一本です。
4-5 スポーツクロノ 世界限定200本 Ref.PKG403
ピエール・クンツとしては希少なスポーツコレクションの一本。大型の45mmケース内にクロノグラフ積算計を向かい合わせのレトログラードで表示します。パピヨンのような配置ですが、レトログラードの向こうへムーブメントを覗くことができるため、機械式時計の動くさまを鑑賞可能です。
インデックスは12時間ごとにAM/PMを切り替えて表示しており、6時位置のAM/PMだけでなく文字盤外周部も白文字/黒地と黒文字/白地が切り替わります。白文字盤に対して針はマットなブラックのため視認性が高く、メリハリが効いた印象のモデルです。
5 【レトログラードの魔術師】ピエール・クンツ
ピエール・クンツの歴史、魅力、代表するシリーズ、おすすめモデルについてまとめました。フランクミュラーに見出された後のピエール・クンツの活躍は、時計業界を驚かせるものばかりで、今後も面白いレトログラードの表現方法を見せてくれるかもしれません。もし街中でピエール・クンツの時計を見かけたらぜひ一度手に取ってみてください。