2024年6月04日
【フランスのマニュファクチュール】ペキニエとは?歴史や魅力を徹底解説
時計
フランスと時計の繋がりはあまり知られていませんが、実は非常に密接な関係にあります。世界初の腕時計はナポレオンの妹カロリーヌ・ミュラへ送られたとされています。スイス時計産業が栄えたのはフランスから宗教革命で亡命してきた時計師によるものなど、実はフランスと時計は長い歴史を紡いでいます。この記事では、フランスで唯一のマニュファクチュールブランドとなるペキニエの歴史、魅力、代表シリーズ、おすすめモデルについて紹介します。
目次
1 【フランスのマニュファクチュール】ペキニエの歴史
1-1 1973年、エミール・ペキニエによって創業
フランスとスイスにまたがるジュラ地方で発展したスイス時計産業ですが、フランス国境を越えた先のモルトーやブザンソンでも時計産業は発展していました。しかしクオーツショックにより多くのブランドが消滅するなど大きなダメージを受けたのはフランスもスイスと同様でした。
渦中の1973年にフランスのモルトーでエミール・ペキニエ氏によってペキニエはスタートしました。16歳で時計製造の業界に入った彼は類まれな技術とセンスを活かし、レディース ウオッチ部門において5回のカドランドール賞を授与するなど世界的に愛されるブランドへと成長させました。
1-2 2009年、自社ムーブメントが完成し、ペキニエ マニュファクチュールを名乗る
あまり知られていませんが、フランスモルトーにはマニュファクチュールブランドがいくつも存在していたことがわかっています。しかしクオーツショックによる影響でそれらの全てがなくなってしまったのでした。
エミール・ペキニエによって創業したペキニエは、2004年にゼニスでエル・プリメロの復活を指揮したディディエ・レイブングッド氏が最高経営責任者に就任しました。彼はクオーツショックでなくなってしまったブランドの意志を継ぐ形で、フレンチマニュファクチュールの再興を決めました。2007年にムーブメント開発に着手、2010年にカリブルロワイヤルとして発表し、再興の一歩を踏み出したのでした。
1-3 宗教革命によって運命が大きく変わったフランス時計産業について
1598年にブルボン朝初代のフランス国王アンリ4世によって「ナントの勅令」が発布されました。これによって 新教徒のプロテスタント(ユグノー)などに対しカトリック教徒とほぼ同じ権利と個人の信仰の自由を認めました。
40年以上続いたフランスの宗教革命は終わったかのように見えましたが、宗教上の対立は残っており、1685年にブルボン朝3代目のルイ14世がナントの勅令を廃止。新教徒の多くは国外へ逃れるほかなく、フランスの時計産業は衰退しました。新教徒の多くが逃げ込んだのがフランスとスイスにまたがるジュラ地方で、現在ではラ・ショー・ド・フォンなど、時計製造業の都市計画として世界的に栄えることとなりました。スイスの時計産業が栄えたのは先進的な時計技術を持った新教徒によるものといっても過言ではありません。
2 【フランスのマニュファクチュール】ペキニエの魅力
2-1 フランス唯一のマニュファクチュールブランド
ペキニエはフランス唯一のマニュファクチュールブランドです。前述の通りフランスの時計技術と多くの職人を宗教革命によって失ってしまいました。順調だったフランスの時計産業は宗教革命によって頓挫し、スイスの影に埋もれてしまいました。
フランスメイドの時計自体はいくつかあるものの、これまでマニュファクチュールブランドは存在していませんでした。ペキニエは超複雑ムーブメントを専門で製造するグルーベル・フォルセイ出身の時計師に恵まれ、マニュファクチュールブランドとして再スタートすることができました。
2-2 完全オリジナル開発のムーブメントのカリブルロワイヤルの高いスペック
フレンチ マニュファクチュールの復活を命題として、ペキニエ社が独自に開発した完全自社開発ムーブメントです。完成に至るまでには5年かけており、279枚のオリジナル図面、150ケのオリジナル金型/工具を製作しています。なんと総部品点数318のうち、316ケが完全オリジナルパーツとなっています。
簡単にカリブルロワイヤルの特徴をまとめます。
①グランドバレル
並外れた大きさの香箱により、パワーリザーブ88時間、72時間の等時性確保を実現
②非モジュール式ムーブメント
日付表示、パワーリザーブ表示、ムーンフェイズ、GMTなど複数の機能を備えながらもモジュールを載せない設計。モジュールでの機能追加は汎用ムーブメントでは優れた手法ですが立体的なトルク返還が求められるためパワーロスの原因にもなっています。カリブルロワイヤルではパワーロスを極限まで抑えるためモジュール追加をしない設計を採用しています。
③フラット3ディスク・ジャンピングデイデイト カレンダー
世界初の国際特許を3件取得したカレンダー表示で、3枚のディスクによる大型のデイデイト表示です。
④複合型リューズ
巻き上げ、時刻合わせ、日付合わせ、曜日合わせの4つの調整をすべてリューズで行います。
⑤高精度ムーンフェイズ
誤差が1日分に達するには約122年と半年かかる高精度なムーンフェイズです。
⑥等時性の高いパワーリザーブ
総持続時間88時間のうち、フル巻き上げ状態から72時間まではトルクが低下しません。そのため長い時間で等時性が確保されています。パワーリザーブ表示上で赤字での表示やマークがされている範囲までと分かりやすい表示も特徴です。
⑦ロービート
21600振動のロービートのため機械へのストレスが少なく、ユーザーにも有難い設計です。
2-3 知る人ぞ知るマイナーブランド故の比較的リーズナブルな価格帯
ペキニエはフランス唯一のマニュファクチュールブランドとして紹介しましたが、フランス時計自体の知名度がまず高くないこともあって、ペキニエはあまり広く知られていません。先述したカリブルロワイヤルが複雑さ故、大量生産ができないこともあって生産数に上限があることも考えられますが、ペキニエはコングロマリットに所属しない独立経営なのもあってビッグブランドほど広告費をかけていません。
そのためカリブルロワイヤルのような複雑で独創的なムーブメントや計算されつくした外装や文字盤デザインをもちながらもリーズナブルな価格帯で展開されています。多機能で本格派デザインをコストパフォーマンスよく楽しめるのは、マイナーブランドであることと惹き替えな部分もあるため、あるいは今の内かもしれません。ビッグブランドの目に留まり買収が行われれば、また違う方向性へ進むことも考えられます。
3 【フランスのマニュファクチュール】ペキニエの代表シリーズ
3-1 リューロワイヤル
リュー(道)、ロワイヤル(王室)の名の通り、王道を進むペキニエの代表シリーズです。ペキニエの展開するマニュファクチュールモデルのすべての基本になっており、クラシックな文字盤デザインや多機能を有するカリブルロワイヤルムーブメントなど、ペキニエのベースモデルです。
最も多くのモデルを展開しているシリーズで、3針やカレンダー表示がトリコロールカラーの限定モデル、グリーン文字盤など他のシリーズにはないデザインが楽しめるのはリューロワイヤルだけです。基本のシリーズだけあって露出も一番多く、ブランドとしても注力しているシリーズです。
ペキニエマニュファクチュールを代表するコレクションとして、ムーブメントにはカリブルロワイヤルを搭載しています。多機能を受け止めるだけのシンプルな文字盤デザインやシースルーバックから見た時のムーブメントとケースのサイズ感など、ムーブメントファーストで開発されたと思われる点がいくつもあり、時計愛好家にこそ好まれるコレクションです。
3-2 パリロワイヤル
王道のリューロワイヤルをブラッシュアップしたハイエンドモデルとなるのがパリロワイヤルです。ケースは専用に開発されており、ミドルケースを後付けのラグで挟み込んだ立体感溢れる外装が特徴的です。荘厳な印象のオールアラビアインデックスや余裕を感じさせる正向きのムーンフェイズなど、複雑で高貴な世界観を纏っています。
ムーブメントは同様にカリブルロワイヤルが搭載されています。ムーンフェイズを省いたモデルも展開されていますが、リューロワイヤル以上に高級感のある余白といった印象で、価格以上に均整の取れたデザインを楽しめます。
3-3 ロワイヤルトリオンフ
リューロワイヤルを基本としつつスポーティなスタイルが特徴のロワイヤルトリオンフ。エジプト遠征の勝利を記念して、1806年にナポレオン・ボナパルトによって建設をスタート。1836年に完成したフランス・パリの代表的な建造物、凱旋門(アルク・ドゥ・トリオンフ)の名を冠したモデルです。凱旋門のもつ厳かで優美な世界観を表現したデザインが特徴です。
ブラックカーボンファイバーの文字盤とブラックサンドブラスト仕上げのチタン製ケースを組み合わせ、ハードでエレガントな雰囲気を纏っています。ブラックとゴールド、差し色に赤と絞り込むことで多機能な中に高級感が漂うモデルです。
3-4 ロワイヤルグランスポール
基本となるリューロワイヤルのグラン(大型)スポール(スポーツ)モデルとなります。リューロワイヤルがケースサイズ42mmのところ、グランスポールは44mmと大ぶりで、文字盤に余白が大きめに取られた分、余裕を感じさせる文字盤となっています。チタンケースモデルやブラックラッカー文字盤も展開されており、ただ大型にならず差別化が図られています。
ムーブメントは変わらずカリブルロワイヤルが採用されていますが、機能数はモデルによってまちまちで、2種・3種・4種と展開されています。大型のリューロワイヤルかパイロットウォッチのような雰囲気をもつスポーツモデルといった見分け方となります。
3-5 ロワイヤル300
ペキニエ初のダイバーズウォッチとして発表されたロワイヤル300。シリーズ名の通り300m防水を備えており、太く夜光処理されたインデックスと針や使用する色を絞り込んだカラーリングによって視認性を高めるなど、ダイバーズウォッチの必要な要素をしっかり押さえています。ねじ込み式のリューズはクイック・スクリューイン方式でリューズを1/4回転回すだけでねじ込みが完了する使い勝手の良い機構。
細かい点としてはリューズガードを備えている点やラバーストラップを基本としていることも、日常でも使いやすいダイバーズウォッチとしてポイントが高い。搭載されているムーブメントはカリブルロワイヤルだが、防水性の理由でスチールバックになっているためこちらはムーブメントの動きは鑑賞できなくなっています。
3-6 モーレア
エミール・ペキニエ氏が1984年にプロデュースした彼の代表的なコレクションで、種別としてはマニュファクチュール以外のモデルがモーレアとなります。スイス時計に通ずる伝統的なデザインや長い歴史に裏付けられた高い品質が特徴で、汎用ムーブメントやクオーツムーブメントを搭載するリーズナブルな価格帯もモーレアの魅力です。
マニュファクチュール以外の種別により多くのモデルを擁しているため、幅広いデザインや機能を備えたモデルが展開されています。比較的コンサバ・クラシックなデザインのモデルが多いですが、スケルトンやアビエイターなど日本ではあまり流通していないモデルも存在しています。
4 【フランスのマニュファクチュール】ペキニエのおすすめモデル5選
4-1 リュー ロワイヤル Ref.9010473B1
ペキニエのマニュファクチュールモデルの基本となるリューロワイヤルのネイビー文字盤モデルです。4(キャトル)機能(フォンクション)を備えており、オンオフ問わず使いやすいネイビー文字盤が多機能とよくマッチしています。
ムーブメントはカリブルロワイヤルを搭載しており、シースルーバックからの鑑賞も楽しめます。基本をしっかり抑えたペキニエとしては珍しいネイビー文字盤での一本です。
4-2 パリ ロワイヤル Ref.9007438
リューロワイヤルと同じ世界観を持ちながらも、さらに洗練された雰囲気をもつパリロワイヤル。シルバーオパリンの文字盤にコパカラーのオールアラビアインデックスを組み合わせたクラシックな印象の強い文字盤で、世界限定50本のみのカラーリングとなります。比較的王道の組み合わせで、人気の高いデザインです。
ミドルケースはマットな仕上げとなっており、上下のポリッシュ仕上げと組み合わせることでより立体感が増しています。後付けのラグは内側にRがかかっており、よりエレガントな印象。後付けな分、磨きを端までかけることができるため細かい点でも完成度の高いモデルです。
4-3 ロワイヤル トリオンフ Ref.9020448/30
リューロワイヤルを基本としつつスポーティなスタイルが特徴のロワイヤルトリオンフ。エジプト遠征の勝利を記念して、1806年にナポレオン・ボナパルトによって建設をスタート。ナポレオンの死後、1836年に完成したフランス・パリの代表的な建造物、凱旋門(アルク・ドゥ・トリオンフ)の名を冠したモデルです。凱旋門のもつ厳かで優美な世界観を表現しています。
ブラックカーボン文字盤やローマンインデックスが描かれたゴールドのベゼルなど、リューロワイヤルとは全く違う世界観を演出しており、優美さとスポーティな雰囲気が同居したモデルです。ムーブメントはカリブルロワイヤルが採用されていますが、自動巻きローターもブラックの特別仕様になっています。
4-4 ロワイヤル グランスポール Ref.9030643 CN
44mmケースの大型モデルで、ケースや針の選択はリューロワイヤルのもの。ムーンフェイズを落としたトアフォンクション(3機能)モデルで、このモデルはブラックラッカー文字盤が特徴です。
クラシックな王道デザインが中心のため様々なギョーシェが施されているモデルが多いですが、ブラックラッカーのつるっとした質感が他にないポイントです。機能数が少ない分文字盤に余白が見られ、液体感のある艶感が楽しめます。ムーブメントはカリブルロワイヤルを搭載しており、裏面からてんぷや歯車の動きを鑑賞可能です。
4-5 ロワイヤル300 Ref.9050443/30/1 JAPAN LIMITED
ブランド初のダイバーズウォッチとして製作されたロワイヤル300の日本限定モデルです。インデックスと針は太く夜光処理されているため夜間や水中でも高い視認性が確保されており、防水性300mの信頼性を強固にしています。リューズガードや1/4だけ回せばロックできるねじ込みリューズなど、ダイバーズウォッチに必要な要素をしっかり備えています。
スチールバックのため、ペキニエを代表する傑作ムーブメントのカリブルロワイヤルが鑑賞できない点には注意が必要です。日本市場先行カラーとなるブラック文字盤/ブルーベゼルモデルです。受注生産方式のため製造数が少なく、生産数を限ったものではないもののレアリティは高め。
5 【フランスのマニュファクチュール】ペキニエ
ペキニエの歴史、魅力、代表シリーズ、おすすめモデルについてまとめました。フランス唯一のマニュファクチュールブランドとして、高い技術とセンスが評価されつつあるペキニエですが、知名度は発展途上といったところ。しかし出自が同じだけあって時計としては、スイス時計に匹敵するほど。これからが楽しみなブランドです。もし街中でペキニエの時計を見かけたらぜひ一度手に取ってみてください。