トゥールビヨンとは?歴史や仕組み・種類を初心者の人にもわかりやすく解説
時計

時計好きはもちろん、高級腕時計に興味を持ち始めた人なら一度は『トゥールビヨン』という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。
しかし、耳にしたことはあってもトゥールビヨンとは何か、仕組みや歴史などを詳しく知らない人も意外と多いはずです。
本記事では、トゥールビヨンとはどんな機構なのかを初心者の人にも分かりやすく解説していきます。
また、トゥールビヨンの誕生から今日に至るまでの歴史や仕組み、トゥールビヨンを搭載した代表的な腕時計なども合わせて解説していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
1.トゥールビヨンとは簡単に言うと”世界三大複雑機構”の一つ
フランス語で「渦」を意味するトゥールビヨンとは「ミニッツリピーター」「パーペチュアルカレンダー」と並び、世界三大複雑機構の一つに称される、時計の歴史を変えた技術のことを指します。
機械式時計の精度を狂わせる”重力”の影響を相殺するため、時計内部に組みこまれている重要なパーツ「テンプ」「ヒゲゼンマイ」「アンクル」「ガンギ車」を「キャリッジ」と呼ばれる小さなケースにまとめて、同時に回転させます。
キャリッジ全体が1分1回転の速度で回転することで、主に垂直方向からの重力を軽減し、精度の誤差を平均化します。
元々は、懐中時計をポケットに収めて持ち歩く習慣があった1800年代当時、常に同じ方向の重力がかかる懐中時計の精度のズレを解消するために開発されました。
2.【歴史】トゥールビヨンとは1801年から始まった”重力”への挑戦
トゥールビヨンの歴史は1801年6月26日、高級腕時計ブランド『ブレゲ』の創設者、アブラアン=ルイ・ブレゲが特許を取得したことから始まります。
当時主流だった懐中時計は、ポケットに収めて使うため、常に同じ向きで”重力”を受け続け、時間を正確に刻むための調速機構に“姿勢差”と呼ばれる誤差が生じていました。
時計の心臓部とも言える調速機構は、特に重力の影響を受けやすく、精度の低下が避けられませんでした。
この課題を解決するため、アブラアン=ルイ・ブレゲはテンプやヒゲゼンマイなどの重要パーツを「キャリッジ」と呼ばれる小さなカゴにまとめ、ゆっくりと回転させることで重力を平均化する革新的な仕組みを生み出します。これがトゥールビヨンです。
しかし構造は非常に複雑で、アブラアン=ルイ・ブレゲが亡くなる1823年までに製造されたトゥールビヨンはわずか35本と、技術的難易度の高さを物語っています。
その後も多くの時計師が再現を試みましたが、部品の重量や構造の複雑さが精度を損なう原因となり、長らく“伝説の機構”として扱われる時代が続きました。
転機となったのは1980年代。クォーツショックで揺れるスイス時計産業が、機械式時計の象徴としてトゥールビヨンを再評価し、再び複雑機構の頂点として世間の注目を浴びるようになります。
こうしてトゥールビヨンは、重力への挑戦から始まったアブラアン=ルイ・ブレゲの発明が200年以上の時を経て、現代の高級時計文化を象徴する存在として受け継がれています。
3.トゥールビヨンの仕組みを分かりやすく解説【3ステップ】
ここまで、トゥールビヨンとは何なのか、歴史を振り返りながら詳しく解説してきましたが、そのうえでトゥールビヨンがどのような仕組みで動いているのかは、よく理解しておきたいところです。
ここでは、トゥールビヨンの仕組みを初心者の人でも分かりやすいように、3つのステップに分けて解説していきます。
3-1.ステップ①時計の”心臓部”をひとまとめにする
トゥールビヨンの仕組みを解説するうえで一つ目のステップとなるのが、時計の精度の命となる”心臓部”をひとまとめにすることです。
具体的には「テンプ」「ヒゲゼンマイ」「アンクル」「ガンギ車」といった精密部品を「キャリッジ(カゴ)」と呼ばれる小さなケースに収納します。
一般的な機械式時計のムーブメントにも上記4種類の精密部品は使用されていますが、固定された状態で、テンプが規則的に振動することで時間を刻む仕組みになっています。
逆に、トゥールビヨンは精密部品をキャリッジに収めることで、時間を刻むのに必要な”回転”という動作を部品全体に一括で与えられるようになります。
3-2.ステップ②心臓部を”キャリッジごと”回転させる
トゥールビヨンの仕組みにおける二つ目のステップは「4番車」の中心に取り付けたキャリッジ全体をゆっくり回転させることです。
一般的な機械式時計のムーブメントは、1番車(香箱車)から始まり、2番車、3番車、4番車、最後に脱進調速機と順番に動力が伝わる仕組みとなっています。
トゥールビヨンでは、時計内部に固定された「4番車」という歯車を軸に、精密部品たちをひとまとめにしたキャリッジが1分間に1回転という速度で回転します。
ここが通常の機械式時計のムーブメントと決定的に違う部分であり、部品そのものが動くだけでなく、部品を収めた構造体そのものが回転することで、時計の姿勢が変わった際に生じる重力の偏りを均一化する狙いがあります。
キャリッジが回転することで、どの方向を向いていても重力の影響が平均化され、精度の安定化につながっています。
3-3.ステップ③誤差を”平均化”して高い精度をキープ
トゥールビヨンの仕組みにおける最後のステップは、回転によって生じる“誤差の平均化”です。
トゥールビヨンはステップ①、ステップ②で解説した特殊構造により、垂直方向の重力の偏りを分散させることで、特定の姿勢で生じる「進み」や「遅れ」を相殺し、全体として高い精度を保ちます。
つまり、トゥールビヨンは精密部品をひとまとめにしたキャリッジがどの方向を向いたとしても、常に一定の姿勢で回転し続けるため、時計自らが本来”姿勢差”によって生じるズレを補正していきます。
4.トゥールビヨンとは3種類に分けられる複雑機構
トゥールビヨンは世界三大複雑機構の一つに数えられ、機構を構築するためには150以上を超えるパーツを用意しなければなりません。
そのため、かつては「トゥールビヨンを製造できる職人は、世界で10人ほどしかいない」と言われていたほどの複雑さを極めますが、実はトゥールビヨンには3つの種類が存在します。
ここでは、
・ノーマルトゥールビヨン
・フライングトゥールビヨン
・ジャイロトゥールビヨン
の3つのトゥールビヨンをそれぞれ分かりやすく解説していきます。
4-1.ノーマルトゥールビヨン
ノーマルトゥールビヨンとは「テンプ」「ヒゲゼンマイ」「アンクル」「ガンギ車」などのパーツを「キャリッジ」と呼ばれる小さな枠に収め、そのキャリッジを1分間に1回転という速度で回転させ、姿勢差による時計のズレを均一化する機構です。
世界五大時計の一角に称されるブランド『ブレゲ』の創設者、アブラアン=ルイ・ブレゲが懐中時計向けに発明した、最も基本的かつ伝統的なトゥールビヨンの種類となります。
従来は高級腕時計に多く採用されていた機構ですが、時代の流れと共に技術が進化し、現在では一般向けの腕時計をはじめ、多くのモデルで採用されるようになりました。
4-2.フライングトゥールビヨン
フライングトゥールビヨンとは、文字盤側の固定ブリッジをなくし、まるでトゥールビヨンが宙を浮いているかのように見せる複雑機構です。
通常のトゥールビヨンは回転するキャリッジが表と裏の両面にあるブリッジによって支えられていますが、フライングトゥールビヨンは裏蓋側だけ機構を支えているため、外目から見るとキャリッジが浮いているように見えます。
ノーマルトゥールビヨン以上に部品の軽量化と高い耐久性が求められる複雑機構ですが、文字盤側のブリッジがなくなったことで、遮るものがなく、キャリッジが美しく回転する様子を存分に鑑賞できる点が最大の魅力です。
1920年にドイツ・グラスヒュッテの時計学校の講師を勤めていたアルフレッド・ヘルヴィグによって考案されました。
また、1735年に創業した現存する世界最古の高級時計ブランド『ブランパン』が1989年に、フライングトゥールビヨンを腕時計に初めて採用したことでも知られています。
重力の影響を相殺するトゥールビヨンの基本性能を受け継ぎつつ、より視覚的な美しさを追求した派生型のトゥールビヨンと言えるでしょう。
4-3.ジャイロトゥールビヨン
ジャイロトゥールビヨンとは、1833年にスイスで創業した高級腕時計ブランド『ジャガールクルト』が2004年に開発した、3D球体のトゥールビヨンのことを指します。地球の重力が時計に与える影響を極限まで減らす目的で開発されました。
通常のトゥールビヨンが1つの軸で平面回転するのに対し、ジャイロトゥールビヨンはキャリッジが3Dの球体に収められており、3軸によって多方向に回転するため、重力の影響を最小限に抑えることができる仕組みです。
当然ですがジャイロトゥールビヨンは、ノーマルトゥールビヨン、フライングトゥールビヨンよりも複雑さを極めます。
球体のキャリッジが複数の軸で立体的に回転する視覚的な美しさは、多くの時計好きから高い支持を得ている機構であり、時計技術のロマンを感じさせてくれる部分とも言えるでしょう。
5.トゥールビヨンは現代の腕時計に必要な機構?
結論から言えば、現代の腕時計にトゥールビヨンは必ずしも必要な機構ではありません。クォーツ時計やデジタルスマートウォッチなど、機械式時計の型にはまらない、自由度の高い時計が普及していることも一つの要因と言えます。
トゥールビヨンは元来、懐中時計が一定の姿勢で固定されることで生じる”重力誤差”を減らすために生まれた仕組みで、現在は素材や加工精度が飛躍的に向上し、通常のムーブメントでも十分な精度を確保できます。そもそも腕時計は着用している限りは常に動き続けるため、姿勢差の影響も自然と分散されます。
それでもトゥールビヨンが今日に至るまで、多くの時計好きに愛されてきたのは、複雑機構を極小のケースに収める高度な技術、回転するキャリッジが生み出す独特の美しさが”機能性を超えた価値”として評価されているからです。
精度の向上よりも、ブランドの象徴性や職人業の結晶としての存在感が、効率では測れないトゥールビヨンのロマンと言えるでしょう。
6.トゥールビヨンを搭載した代表的な腕時計5選
トゥールビヨンは時計好きであれば、一度は耳にしたことがある機構ですが、時計初心者をはじめとした一般層には、あまり馴染みのない言葉かもしれません。
実際、ここまでトゥールビヨンとは何なのかを詳しく見てきた人でも「トゥールビヨンを搭載した時計」がすぐに思い浮かばない人も多いのではないでしょうか。
ここでは、トゥールビヨンを搭載した代表的な腕時計を5つ紹介していきます。それでは早速見ていきましょう。
6-1.ブレゲ|クラシック トゥールビヨン 5317
トゥールビヨンを搭載した代表的な腕時計として、まずはじめに紹介するのがブレゲの『クラシック トゥールビヨン 5317』です。
世界三大複雑機構の一つであるトゥールビヨンと、約5日間のロングパワーリザーブを自動巻きで実現した最高峰のドレスウォッチとして、時計好きに高く評価されています。
6時位置にトゥールビヨン機構を配し、12時位置にオフセンターダイアルを配するという、ブレゲのトゥールビヨンモデルの典型的なデザインをしている一本で、ブランドを象徴する定番のタイムピースです。
ゴールド製のコインエッジケースに、手作業で施された美しいギョーシェ彫りや青焼きのブレゲ針が配された文字盤など、創業者アブラアン=ルイ・ブレゲの伝統を受け継ぐ気品ある仕上がりが魅力です。
6-2.オーデマピゲ|ロイヤルオーク フライングトゥールビヨン
オーデマピゲにはトゥールビヨンを搭載したタイムピースが数多く存在します。今回紹介するのは『ロイヤルオーク フライングトゥールビヨン』。
オーデマピゲの定番モデル「ロイヤルオーク」に最高峰の複雑機構「フライングトゥールビヨン」を搭載したモデルです。
ダイヤルの6時位置に、キャリッジが宙に浮いているように回転する美しいデザインのフライングトゥールビヨンを搭載しています。
八角形のベゼルやタペストリー模様の文字盤など、ロイヤルオークの象徴的なデザインに加え、職人業が織りなす最高峰の複雑機構が備わったロイヤルオーク フライングトゥールビヨンは、世界中の時計愛好家が憧れる一本と言えるでしょう。
6-3.ランゲ|ランゲ1 トゥールビヨン・パーペチュアルカレンダー
トゥールビヨンを搭載した代表的な腕時計として3つ目に紹介するのが、A.ランゲ&ゾーネの『ランゲ1 トゥールビヨン・パーペチュアルカレンダー』です。
A.ランゲ&ゾーネの腕時計は、全てのモデルで2度組みを行う、まさに効率度外視の生産体制を行っているため、年間の生産数が極めて少ないことが特徴です。
それに加えて、複雑機構のトゥールビヨンを搭載したモデルとなると…一つの腕時計を製造するのに、とてつもない時間が掛けられていることが容易に想像できます。
こうした職人の地道な手作業によって作り上げられたのが、ブランドのアイコンである「ランゲ1」に、ダイアルデザインを崩すことなく「トゥールビヨン」と「永久カレンダー」の二大複雑機構を調和させた、革新的なタイムピース『ランゲ1 トゥールビヨン・パーペチュアルカレンダー』です。
時計の文字盤にはトゥールビヨン用の小窓がなく、一見すると通常のカレンダー時計のように見えますが、時計を裏返すとサファイアクリスタルガラス越しに、美しく回転するトゥールビヨン機構を堪能できる仕組みになっています。
6-4.タグホイヤー|カレラ クロノグラフ トゥールビヨン
トゥールビヨンは、かつては超高級腕時計ブランドに多く見られた機構ですが、現在では技術の進化とともに幅広い時計ブランドで採用されています。
ラグジュアリースポーツウォッチをコンセプトにしているブランド、タグホイヤーにも実はトゥールビヨンを搭載したモデルが存在します。それが『カレラ クロノグラフ トゥールビヨン』です。
ブランドの代表作「カレラ」に「トゥールビヨン」とクロノグラフ機能を搭載した、ハイエンドのタイムピースで、数千万円を超える高額帯の多いトゥールビヨンにおいて、自社製ムーブメント(TH20-09やホイヤー02T)などを採用することで、比較的現実味のある価格帯を実現し、時計界に衝撃を与えた一本でもあります。
6-5.シチズン|カンパノラ
日本を代表する腕時計ブランド、シチズンからも2022年6月にトゥールビヨンを搭載したモデルが誕生しました。
イタリアのカンパニア地方に存在する”ノラ”という町が由来となったシチズンの代表モデル『カンパノラ』は、独創的なデザインと日本の伝統工芸、先端技術を融合させたタイムピースです。
2022年6月1日に『カンパノラ』のグローバルアート コレクション「天」と「地」が各5本限定で販売され、時計好きの間で大きな話題となりました。
スイスのラ・ジュー・ペレ社と共同開発した専用の薄型機械式ムーブメントを採用しており、キャリッジだけで52個の精密部品を使う複雑構造でありながら、一般的なトゥールビヨンよりも半分の厚みに抑えられている点が特徴です。
7.【まとめ】トゥールビヨンとは職人業が成す最高峰の技術
トゥールビヨンとは、当時主流だった懐中時計の“姿勢差”による”誤差”を解消するために開発された機構ですが、時代の流れとともに、高級腕時計をはじめとした様々なモデルに採用されていきました。
現在は「ミニッツリピーター」「パーペチュアルカレンダー」と並び、トゥールビヨンは世界三大複雑機構の一つとして世界中の時計好きから高く評価されています。
時計技術の進化により、今ではトゥールビヨンの存在価値に疑問を持つ人も一定数いますが、高級腕時計におけるステータス性や職人業による技術的背景、歴史や芸術品としての価値観が不変の需要を集めています。








