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2023年7月06日

止まる?進む?自然に治る?磁気帯びが時計に与える影響と対策。

時計

みなさんは時計が磁気を帯びることをご存知でしょうか?
磁力は「時計の天敵」とまで言われているほどで、使用していく上で大きな影響を与えてしまいます。

私たちの生活にも身近なスマホやオーディオ機器、パソコンなどの電子機器から磁力を帯びてしまい、自然に治ることは基本的にはないので時計の寿命を縮めてしまうケースもあるほど危険度が高いです。しかしながら、そんな電子機器があふれた現代社会においても、気にせず時計を使用している方が多いのが実情です。

さて、この記事では磁気帯びが時計に与える影響と対策、磁気帯びになってしまった場合などを深く説明していきたいと思います。磁力に強い時計の選び方まで徹底的に解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。

1.磁気帯びとは?時計の種類別に与える影響まで

磁気帯びとは時計の部品が磁気を帯びてしまうこと。歩度やその他の機能に影響を及ぼしてしまいます。磁気帯びは時計の種類によって止まることや進むなどの影響の出やすさや種類が異なります。

例えば機械式時計で歩度の進みが強く出ている場合には、歩度調整をするよりも、まずは磁気帯びが起きていることが疑われます。
ある程度発生する症状は決まっているため、時計の種類によってどんな症状が出やすいかを解説していきます。

1-1.機械式時計

手巻き時計や自動巻き時計の機械式時計は、磁気帯びしてしまうと基本的に進む症状が見られます。

よく歩度調整されている時計で日差+10秒程度されている時計が多いですが、+40秒~+60秒といったように大幅に進みやすくなってしまいます。磁気帯びしてしまった部品にもよるのですが、時計の心臓部であるひげぜんまいが磁気帯びしてしまった場合は特に進むの原因となります。

機械式時計のエネルギーの流れはおおよそ以下の通りです。
リューズ、自動巻きローターから伝わってくる巻き上げエネルギーを歯車を通してガンギ車やアンクルへ。ひげぜんまいの収縮に変換し、収縮の速度や縮む量が秒針の動くスピードを左右しているといった流れです。

この時、ひげぜんまいが磁気帯びしてしまっていると、髪の毛よりも細い線が収縮する際に、くっついてしまいます。くっついてしまうということは、本来よりも小さなストロークで縮むということになり、秒針の動きが本来よりも早くなってしまうことになります。

これ以上に磁気帯びが強くなってしまった場合には、収縮しないほどにくっついてしまい、動かなくなってしまいます。磁気帯びが確認できた場合にはすぐに専門店やメーカーへの相談をおすすめします。

1-2.アナログクオーツ時計

クオーツ時計はそのものが電子機器なので磁気帯びしないと思われがちですが、歯車を使うような多機能なアナログクオーツ時計は磁気帯びします。

アナログクオーツ時計は内部にモーターが使われており、モーターの磁気帯びによって進みやすくあるいは遅れやすくなってしまいます。最悪の場合、時計が止まってしまうケースもあります。

ちなみに、同じクオーツ時計でもデジタル時計は磁気帯びによる影響を受けません。デジタル表示のクオーツ時計なら、磁気帯びを気にせずに使うことができます。

1-3.アンティークウォッチ

機械式時計にとって致命的な存在となる磁気ですが、未だに確実な解決方法は見つかっておらず、電子機器を所有することが当たり前になっている現代では、磁気対策は必須となっています。特に1950年以前に作られたアンティークウォッチは特に対策がされておらず、磁気の影響を受けやすい作りでした。

1960年代に入りそれまでに比べ耐磁性をもった時計がつくられるようになり、耐磁性のある部品が使われている時計には「ANTI-MAGNETIC」の表記がされるようになりました。とはいえ当時とは比にならない程の電子機器に囲まれている現代では、耐磁性が強い時計とは言えません。

アンティークウォッチにおいては、ほかの種類の時計と比べても、特に磁気帯びに気を付ける必要があります。

2.磁気帯びへの対策とセルフチェック

ここでは時計が磁気を帯びてしまう原因と身近な磁気製品や気をつけること、時計が磁気帯びしているかを確認する方法についてまとめていきたいと思います。磁気帯びをしないように普段の行動から確認していきましょう。

2-1.磁気帯びの原因とは。身近な磁気製品のまとめ。

磁気帯びと聞いて、身近に磁石がないから大丈夫と思われるかもしれませんが、現代社会では、身の回りに磁気帯びする品物はたくさんあります。磁石ではなくモーター等を使用した電化製品の多くが磁気帯びの原因となります。

例えば今この記事を読んでいるスマホ、あるいはパソコン、どちらも距離を近づけすぎると磁気帯びの原因となります。
スピーカー部分が磁気を発生させており、タブレット、TVなど家電製品の多くも磁気帯びの原因に。ACアダプターなども同様です。特に強い磁気を放っているIH機器や磁力を使う健康器具(〇〇エレキバンなど)には特に注意が必要です。

意外に盲点なのが鞄等に付いている磁石です。
鞄に入れて持ち帰る、保管する際に鞄の磁石や筆箱の磁石などの近くにあると磁気帯びの原因となってしまいます。もう一つ、時計本体ではなく、金属ブレスレットや革ベルトについている金具類が磁気帯びしてしまっているケースもあります。

2-2.磁気帯びしないようにするには距離に気を付けて防止

磁気帯びしないようにするためには、前述した電子機器から5cm以上距離を置くようにしましょう。ISO(国際標準化機構)では、約1,600A/m(20ガウス)の耐磁性が、JIS(日本工業規格)では約4,800A/m(60ガウス)となっており、5cm距離を離すことで日常生活においてはこの規格内での使用が可能になります。

5cm以上距離を離すことが必要なため、家電製品の上に置く、帰宅して車の鍵や音楽プレイヤーと一緒に時計を置くといった行為は磁気帯びの原因となります。距離を離すことが必要なので、保管場所を見直して防止策をとる必要があるかもしれません。

そんな時には時計ケースやウォッチワインダーの使用がおすすめです。

<時計ケース>
・時計を一本一本保管できる専用のケース。
・持ち運びが便利なタイプや販売店のディスプレイのように保管ができるものまで様々。
・電子機器との距離を離すだけでなく傷防止や整頓にも。

<ウォッチワインダー>
・主に自動巻きモデルに役立つ。
・ムーブメントを自動で巻き上げてくれるスタンド。
・時計をセットした後、自動巻きローターが回転するように時計が回転する仕組み。
・時計を使わない期間で巻き上げ不足による時刻ズレや止まることを防止できる。

2-3.磁気帯びしているか確認!3つのセルフチェック項目

時計を着けている手でスマホに触れないのか、パソコンで作業する時もいちいち時計を外すのか、と面倒になってしまうため実際には5cm以上必ず距離を離して生活するのは難しいです。磁気帯びしてしまっているかをご自身で簡単に確認する方法があれば少し安心できますよね。方位磁石を使用した確認方法を紹介しますので、ぜひ試してみてください。

<磁気帯びの簡易確認方法>
①100円ショップ等で売っている方位磁石を用意。
②時計の真上に方位磁石をかざす。
③方位磁石の針が動くか確認。

この時、方位磁石の針が動いた場合磁気帯びしてしまっています。
もしピクリとも動かなかった場合には磁気帯びしていません。

スマホのアプリ等で磁石アプリもあるのですが、スマホの種類によっては正確に見ることができなかったり、逆に時計を磁気帯びさせてしまうといった可能性があるため、100円ショップ等で方位磁石を購入し試してみるのが安全な方法です。

3.もし磁気帯びしてしまったら?多少の磁気帯びは自分で対応する?

ここまでは、磁気帯びについてやそうならないための対策について説明させていただきました。

では、もし磁気帯びしてしまったらどう対応したらよいのでしょうか?
ここからは、磁気帯びしてしまった後の対応について紹介していきたいと思います。

時計の種類によって変わるということもなく、どの時計にも適用できる共通の対応を説明していきます。

3-1.磁気を帯びているなら、購入したショップへ時計修理を依頼

もし、皆さんの時計が時期を帯びているのであれば、磁気抜きをしてあげる必要があります。
磁気抜きをするには脱磁機という専用の機械が必要になるのですが、使う場面が限定的なため所有している方は少ないでしょう。自然に治るということはほとんどないので、基本的には購入したショップへ時計修理を依頼してください。

一言で磁気帯びといっても帯びてしまった磁気の強度によっては脱磁機だけでは抜けない場合もあります。その場合、一度時計を分解してからパーツごとに脱磁、注油等をして組み直しとオーバーホールをする必要が出てきます。

ショップに持ち込んだ際にその場で脱磁してくれた場合、脱磁→方位磁石→抜けてなければもう一度脱磁、のチェックの流れになるのですが、数回の脱磁で抜けない場合はオーバーホールが必要です。ショップに持ち込めばそのままメーカー送りにできるため、スムーズな修理が可能です。

3-2.自分で磁気抜きをすることも可能

既に脱磁機をお持ちの方は少ないかと思いますが、新たに機器を購入してご自身で脱磁することも可能です。安いもので1,000円程度、筆者が時計専門店で使用していた機器は5,000円程度のものでした。

機械式時計、クオーツ時計といった種類によっての差はなく、どの時計にも共通で使えるので、時計を複数お持ちの方は持っていても良いかもしれません。脱磁できたかどうかは脱磁機だけではわからないので、脱磁機を買う時は方位磁石とセットで買いましょう。

3-3.自分で磁気抜きする際の注意点

ご自身で脱磁する際の注意点として、どの脱磁機もスイッチを押すだけのシンプルなつくりになっている分、逆に磁気を入れてしまうことがあります。基本的にはスイッチを入れてから磁界を発生させてから時計を近づけ・セットし、時計を離してからスイッチを切る、の操作となります。

シンプルなようで意外に難しく、逆にやってしまうと磁気を入れてしまうことになります。必ず、脱磁機での操作の後には方位磁石で磁気帯びしていないかを確認しましょう。そして可能なら、タイムグラファーで歩度を見ることができると、より磁気帯びによる歩度の狂いがないことを確認できます。

4.磁気帯びしにくい機構とおすすめモデル

磁気帯びは時計にとっても致命的かつ避けられない問題で、これまで様々な対策が講じられてきました。日常生活の範囲では5cm以上離すことで対策できるのですが、機械を主に操作するエンジニアや開発者はそうはいきません。常に強い磁力にさらされているため、もっと強い磁気への対策が必要となります。

そうして生まれた磁気帯びしにくい機構を搭載したモデルや、最近では逆に磁力を利用したムーブメントが生まれています。ここでは主に採用されている機構の一部とモデルを紹介します。

4-1.磁気帯びしにくい軟鉄製インナーケース

磁気帯びの対策として一般的に採用されているのが、軟鉄製のインナーケースでムーブメントを覆うことです。軟鉄≠純鉄の非磁性体で覆ってしまうことで磁気をムーブメントに届かないようにする機構です。

時計自体に厚みが出やすくなりますがシンプルな機構のため、多くのメーカーが採用しています。大きな機構開発をせずに対策できるため、比較的時計の価格への影響が小さく済むのもユーザーとして有難いポイントです。

4-2.磁気帯びしにくいシリコン製ひげぜんまい

時計の部品の中でも磁気帯びしたときの影響が大きいひげぜんまいですが、シリコン製ひげぜんまいにすることで磁気帯びの影響を最小限に抑えることができます。

ひげぜんまいは元々ステンレス合金でつくられており、収縮と拡張する動きで秒針の速度をコントロールしています。精密で隙間の少ないらせん状の部品のため、磁気帯びしてしまうと隙間がくっついてしまい進みやすく、あるいは止まってしまう原因となります。

一方、シリコン製のぜんまいは磁気帯びをしない、摩耗しにくい、軽量といった点が最大のメリット。壊れやすく、湿気に弱いところがデメリットとして挙げられていますが、弱点の克服に向けて各メーカーが開発を進めています。

4-3.ロレックス ミルガウス

ミルガウスは1950年代に生まれたロレックスの耐磁モデルです。

1,000ガウス(80,000 A/m)に耐えられる時計としてつくられました。
ミルガウスはムーブメントを軟鉄製のインナーケースで覆うことにより耐磁性を確保するだけではなく、文字盤側からの磁力をできるだけ抑えられるように、窓を伴う日付表示機能は搭載されていません。時・分・秒だけのシンプルな時計となっています。

また、磁気帯びに強いロレックス独自のパラクロムひげぜんまいやガンギ車、アンクルなどを採用することで耐磁性を強化しています。元々磁気が強い環境での使用の多いエンジニア向けに開発された時計で、1950年代後半にはCERN(欧州合同原子核研究機構)に採用されています。

4-4.IWC インヂュニア

インヂュニアは1955年に開発されたIWCによる耐磁性に特化したシリーズです。

元々パイロット向けに展開されていたマーク11を民間用として展開したものがこのモデルです。インヂュニアもミルガウスと同様で軟鉄製のインナーケースを採用することで、ミルガウスと同程度の1,000ガウス(80,000 A/m)の耐磁性を備えています。名前の由来はエンジニアから。

インヂュニアは世代によって耐磁性が大きく進化しています。発表初期の1955年~1975年までは80,000 A/mで、世界的な時計デザイナーのジェラルド・ジェンタ氏によるインヂュニアSLいわゆる第二世代(~1983年)まではデザインは一新したものの変わらない耐磁性を有していました。

1989年以降のインヂュニア第三世代は軟鉄製のインナーケースを遣わずにそれまでの6倍以上の500,000 A/mもの耐磁性を発揮しました。(実際には3,700,000 A/m程度の耐磁性があったと言われていますが、当時の技術では正確に測定する方法がなかったとか)

軟鉄製のインナーケースを使わずに耐磁性を強化するのに使用したのはニオブ‐ジルコニウム合金によるひげぜんまいの開発でした。ニオブ‐ジルコニウム合金は耐磁性に優れており、現在でもロレックスなど多くのメーカーに採用されています。

インヂュニアはその後2001年から一度生産終了したものの2005年に復活し、2007年にはシースルーバックの耐磁性に特化していないモデルも発表されています。現行では40,000 A/mと控えめとなっていますが、コンパクトなデザインとの兼ね合いによるものとのこと。インヂュニアをアンティークモデルを含めて検討する際には、よく調べる必要があります。

4-5.オメガ シーマスター

2023年現在で最も高い耐磁性を備えているのがオメガ シーマスターです。具体的にはシーマスターのマスタークロノメーター認定を取得したモデルとなります。このシリーズに現在搭載されているコーアクシャル機構が他の追随を許さないほどの耐磁性を生み出しています。

コーアクシャルは耐磁性を確保する機構ではなく、パーツの摩耗が少なくなることでメンテナンスの頻度が少なく済む脱進機のことです。通常はアンクルの爪が2つのところを3つ使用することで一つ一つのパーツへの負担を減らすことができました。

1974年にジョージ・ダニエルズ博士が発明し、オメガが改良と量産に成功。現在採用しているメーカーはオメガだけとなります。改良の一つとしてシリコン製のひげぜんまいなど耐磁性を向上させました。

コーアクシャル機構を搭載したモデルの耐磁性は1,000ガウスとロレックスミルガウスやIWCインヂュニアと同等です。現在では更に耐磁性を改良したマスターコーアクシャルとなり、15,000ガウスとダントツの耐磁性を有しています。

ちなみに現行のオメガの主流はマスターコーアクシャル機構を搭載しつつ、COSCクロノメーター認定を取得できる高い精度のコーアクシャル マスタークロノメーターです。最高クラスの耐磁性と精度が認められています。

4-6.現在では磁力を利用する時計も開発されている

ここまで磁気は腕時計の敵として取り扱ってきましたが、最新の技術では磁力を利用してムーブメントを安定させる仕組みを開発したメーカーもあります。新進気鋭の時計メーカークストスによるチャレンジシリーズは、時計のタブーとされてきた磁力を逆に利用しています。

チャレンジシリーズはいずれもトノーケースが特徴で、通常は秒針は文字盤中央にありますが6時位置にスモールセコンドとしてのデザインを優先する場合、新たに輪列を用意する必要があります。このときぜんまいから遠くなるほど(歯車を多く介すほど)動力は弱くなりますが、チャレンジシリーズは大型トノーケースなのもあり、スモールセコンドの秒針は大型、しかもプロペラのような凝ったデザインです。

それでもクストスがデザインのこだわりを貫き通すために考案したのが、輪列の途中に永久磁石を仕込むことで動きを安定させること。これまでタブーとされてきた磁石を逆に利用する斬新な試みです。

5.まとめ

いかがだったでしょうか。この記事では磁気帯びが時計に与える影響と対策についてまとめました。

ご自身の時計が磁気帯びしているかをまずチェックし、保管場所も改めて確認してみましょう。もし磁気帯びしていたら購入したショップへの持ち込みと、磁気帯び対策されている時計を一度検討してみるのも良いかもしれません。

記事内で紹介したミルガウス、インヂュニア以外にも磁気帯び対策がされている時計もありますので、もし街中で見かけたらぜひ一度手に取ってみてください。

 

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