2024年9月05日
【神の手を持つ時計師】パルミジャーニ・フルリエとは?歴史や魅力を徹底解説
パルミジャーニ・フルリエの名を時計愛好家なら一度は聞いたことがあるかもしれません。いちブランドとしてだけではなく、修復不可能と言われたブレゲのシンパティック・クロックの修復や、現状最も厳しいとされているカルテ・フルリエの制定に尽力など、時計業界の歴史に名を残す一人です。グループ内で部品を調達するマニュファクチュール体制もあって、パルミジャーニ・フルリエの時計はどれもこだわりの強いものばかりです。この記事ではパルミジャーニ・フルリエの歴史、魅力、代表シリーズ、カルテフルリエについて、おすすめモデルについてまとめました。
目次
1 【神の手を持つ時計師】パルミジャーニ・フルリエの歴史
1-1 1976年時計修復師ミシェル・パルミジャーニが時計工房を開く
パルミジャーニ・フルリエの創業者ミシェル・パルミジャーニは1950年にスイスのクヴェで生まれました。フルリエ地方の時計学校で時計作りを学び、20歳の若さで上級時計師資格を取得しました。
1976年にアンティーク時計の修復を専門とする伝統的な時計工房「ムジュール・エ・アール・デュ・タン」を開設しました。アンティーク時計の修復を行いつつ、複雑な時計の設計や製作を行い、個人的な創作も続けていました。
クオーツショックによる機械式時計への逆風が苛烈な時期で、当時は周囲から猛反対されたと言います。しかしこれを強行し、時計工房を開きました。結果、彼の優れた修復技術は瞬く間に評価されていきました。
パテック フィリップ・ミュージアムやシャトー・デ・モンの重要な銘品を修復したことで、彼の名声はさらに輝くこととなりました。最も有名な修復の1つがアブラアン・ルイ・ブレゲが1829年に製作したシンパティッククロック(同調時計)で、他の誰も修復できなかった時計でした。ミシェル・パルミジャーニは1600時間もの期間を掛けて修復に成功し、大きな注目を集めることとなりました。
1-2 1996年パルミジャーニ・フルリエの名で正式にブランドとして設立
1980年、ミシェル・パルミジャーニは、アンティークのオートマタやクロックの膨大なコレクションを所有するサンド・ファミリー財団から、コレクションの管理を任されることなりました。財団の後押しと支援を受けることで、自身のブランドを立ち上げることを決意したのもこれがきっかけと言われています。
1996年についにパルミジャーニ・フルリエが誕生。スイスのローザンヌにあるボー・リヴァージュ・パレスで正式に発表されました。時計修復師としての技術と実績をウォッチメイキングに活かした名品はここから生まれます。
同年、パルミジャーニ・フルリエ最初の腕時計であるトリックQPレトログラード、カルパが発表されました。ゴドロン装飾とローレット加工が施された特徴的なデザインをもつトリック、黄金比でデザインされたトノーケースのカルパは、その後のブランドに影響を与え続けています。
1-3 2004年現状最も厳しい品質基準であるカルテフルリエの制定に協力する
1999年、ミシェル・パルミジャーニは自身の追い求める厳しい品質基準のために真のマニュファクチュール化を押し進めます。まず、精密機械加工と手仕事の職人技を併せ持つケースメーカーのレ・アルティザン・ボワティエ社を買収しました。
2001年には輪列、カナに関係する微小な歯車を専門とするメーカーのアトカルパ社を買収、細かいパーツの切削加工を行うエルウィン社を買収しました。同時に最高水準のムーブメントを開発することを目的として、ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエ社、文字盤の製作を手掛けるカドランス&アビヤージュ社を設立しました。これによりスイス国内で最高クラスの一貫生産体制を行うマニュファクチュールブランドとなっています。
2004年、自社の製品のレベルを上げるだけではなく、スイスブランドの品格を上げる規格を設立します。現時点で最も厳しいとされる品質基準のカルテフルリエを制定しました。同じフルリエ地方で活躍するボヴェ、ショパールとの共同プロジェクトで、カルテフルリエ財団を設立しています。それまでの機能をメインとしたスイスクロノメーターやドイツクロノメーターとは違い、外装の仕上げにも基準を設け、審美性も追求する規格となっています。
2 【神の手を持つ時計師】パルミジャーニ・フルリエの魅力
2-1 グループ傘下に部品メーカーを擁するマニュファクチュール
パルミジャーニ・フルリエは自社グループ内に部品メーカーやムーブメント設計の会社を擁しています。買収、もしくは設立し、自社グループ内で設計と製造を行うことで、よりこだわりの詰まった時計づくりを実現しています。
ケースメーカーのレ・アルティザン・ボワティエ社、微小な歯車を専門とするメーカーのアトカルパ社、切削加工を得意とするエルウィン社、ムーブメント開発を手掛けるヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエ社、文字盤製作を専門とするカドランス&アビヤージュ社といった複数のメーカーを擁しており、ミシェル・パルミジャーニの追い求める真のマニュファクチュールの実現へ進んでいます。
2-2 バリエーション豊かなエレガントなカラーダイヤル
パルミジャーニ・フルリエの文字盤はエレガントなカラーバリエーションが特徴です。2023年に特別モデルで発表されたアイスブルーや一般的にはあまり見られないグリーンやブルーといった文字盤で展開されており、パルミジャーニ・フルリエらしいエレガントな装いとなります。
パルミジャーニ・フルリエの文字盤はグループ内に設立したカドランス・エ・アビヤージュ社で製造されています。繊細な下地の仕上げや薄いメッキなどの古典的な手法を得意としていますが、2016年にはLIGAプロセスを使ったインデックスの製造も手掛けるなど、革新的です。他のブランドにないカラーリングを実現するために自社グループ内に文字盤メーカーを設立しており、ミシェル・パルミジャーニのマニュファクチュールへの強いこだわりを感じさせます。
2-3 ブガッティやアルマーニなどのブランドとのコラボが盛ん
パルミジャーニ・フルリエは時計以外のハイブランドとのコラボレーションが盛んです。元々建築関係の知識が豊富で時計業界に入っているためか、時計一辺倒にならずに外部からの刺激を前向きに受け取っているようです。
高級車メーカーのブガッティ、ファッションブランドのジョルジオアルマーニとのコラボモデル、高級ヨットメーカーのパーシングとのモデルなど複数のモデルが展開されています。どれも各ブランドの意匠を取り入れつつ、パルミジャーニ・フルリエの哲学がしっかり反映されており、ブランドのファンはもちろんパルミジャーニのフルリエの愛好家も納得できる出来ばえです。
3 【神の手を持つ時計師】パルミジャーニ・フルリエの代表シリーズ
3-1 トンダ
ブランドを代表するコレクションとなったトンダはイタリア語で円形を意味しており、ルネサンス期の画家が円形のキャンバスで大作を描いたことに由来するベニス地方の言葉トンドからとった名前です。ダイヤル製造会社のカドランス・エ・アビヤージュを自社グループ内に設立し、専用につくられた端正な美しさをもつ文字盤を採用しています。グリーンやブルーなど使うことが多いですが、繊細な風合いをもつカラーリングはユニークな特徴でもあります。
黄金比でデザインされておりベースモデルとして採用されることが多く、派生モデルも多く展開されています。薄型ケースで端正な仕上がりをもつトンダPF、ケースに厚みをもたせ機能を充実させたトンダGTと区別されており、クロノグラフを搭載した二つのモデルはまるで違った雰囲気をもっています。
モダンで現代的なテイストをもちつつ、ミシェル・パルミジャーニの哲学と上手く融合させた人気のコレクションです。
3-2 カルパ
カルパは黄金比をデザインに取り入れたとされるトノーケースが特徴です。黄金比とは古代ギリシアから伝わる人間が最も美しいと感じる比率といわれており、近似値では1:1.618とされています。一般的なトノーケースよりも四角形に近い形状で、アプライドインデックスと組み合わせて立体的な造形美をもつエレガントなコレクションです。
クロノグラフやレトログラード表示などの機能を搭載したモデルも発表されており、ベースモデルとして度々採用されています。厳格な検査基準のカリテ・フルリエ認証を通過したモデルもあり、トノー型の自社製ムーブメント開発など手間とコストのかかるポイントを感じさせることの多いモデルです。それだけこだわりが詰まっているコレクションといえるでしょう。
3-3 トリック
1996年に正式にブランドとして立ち上がった際に発表したコレクションです。円環を意味するトリックと名付けられており、バケーション中に浜辺で拾った貝殻に着想を得てベゼルにゴドロン装飾とモルタージュ装飾を施しています。モルタージュ装飾は手回しの旋盤で職人によりつくられており、一つ一つ微妙に異なる手作りならではの仕上げが欲しいとのこと。ミシェル・パルミジャーニの強いこだわりです。現在はシンプルなモデルに、ミニッツリピーターなどの複雑系も展開され、シンプルで奥深いデザインだからこそのユニークさと拡張性が魅力です。
元々シンプルな機能だけのモデルから複雑系まで幅広く展開されたトリックコレクションは、途中納得がいかない流れになったのか、原点回帰として2017年に再構築され再スタートしています。ヒット作のトンダよりもミシェル・パルミジャーニの哲学が色濃く出ているコレクションのため、一度原点に立ち戻ったようです。
3-4 エアロライト
フランスのスポーツカーメーカーのブガッティ社とのコラボレーションで生まれたエアロライト。2004年から2019年の15年間で発表されたモデルはどれもブガッティの名車からインスパイアされています。ブガッティとのコラボレーションモデルを2点紹介します。
2004年に発表されたブガッティ タイプ370はムーブメントを横方向に配列する独自の機構を搭載しています。50以上の異なる分野のエキスパートが374個もの部品点数を組み上げてつくられているモデルで、完成までに5年間を費やしています。
エアロライトパフォーマンスは伝説の「ブガッティ エアロライト」と約3億円といわれる名車「ブガッティ シロン」から。赤と青の四角枠型の針による積算計は、ブガッティ シロンがモチーフです。革新的と言われるボディが特徴ですが、フロントからバックへと縦断するリベットをラグで表現しています。
3-5 パーシング
イタリアの最高級ヨットメーカーのパーシング社とのコラボレーションで生まれたコレクションです。横3つ目のクロノグラフを基本に、力強いベゼルやインデックスなど、スポーティーで堅牢な世界観が表現されています。ケースバックにはヨットのエングレービングが施されています。
2015年に発表されたzero-zero-twoモデルは、タコをモチーフにしたクロノグラフ針、ヒトデを象った秒針、ベゼルにセットされたバゲットカットのダイヤモンドとサファイアなどフェミニンにエレガントな世界観を演出しています。ブルーマザーオブパールの文字盤で海を表現し、話題となりました。
4 【神の手を持つ時計師】パルミジャーニ・フルリエが推し進めたカルテフルリエについて
4-1 現状最も厳しい品質基準とされているカルテフルリエとは
スイスのフルリエ地方に工房を構えるショパールやパルミジャーニ・フルリエ、ボヴェなどによる共同プロジェクトで立ち上がった規格で、2004年に制定されました。COSCクロノメーター検定に代表される外部機関による公正な品質基準の一つで、現状最も厳格な品質基準とされています。
ムーブメントの精度だけでなく耐久性・耐磁性・耐衝撃などの実用面に限らず、審美的な外装の仕上げかどうかも求められます。100%スイス製であることも必要です。道具としての優秀さだけでなくスイス時計とはこうあるべきというような気高さを感じさせる内容です。
4-2 実用性を測るクロノフィアブルテスト、外装の芸術性も審査対象
カルテフルリエの認証を受けるには下記のテストを通過しなければなりません。概略をまとめました。
・COSCクロノメーター認証
前提としてスイスクロノメーター検定をパスする必要があります。
・100%スイス製造
ブレスレットとクラスプを除く時計本体に対してとなります。材料の原産地は問われませんが、連邦条例が定めるスイス製の基準をクリアするために加工、組み立て、調整、ケーシングをスイス国内で行わなければなりません。
・審美的な仕上げのムーブメント
ムーブメント単体の組み上げ前の時点で適合性のチェックとジュネーブシール並の仕上げが施されているかの審美性を問われます。
・クロノフィアブルテスト
カルテフルリエの厳格さを象徴するテストと言われています。5~10%の抜き取り検査として、耐衝撃性、耐熱、耐水をテストします。リューズ、プッシュボタン、ベゼルまでを対象としています。
・完成品の歩度実証
ケーシング後の時計に日常生活に近い状態を想定した24時間の精度試験を行い、日差で±0~+5秒以内であることが求められます。
4-3 数少ない認定されたモデル
カルテフルリエはジュネーブシールのように製造地の縛りがないものの条件が過酷なため、実際にカルテフルリエの認定をパスしたモデルは限定されています。現状ではカルテフルリエ財団の設立に関わったパルミジャーニ・フルリエ、ボヴェ、ショパールが利用しています。
例えば、トンダ39 カルテフルリエは認定をパスした数少ないモデルです。3針+日付表示機能を備えたシンプルなモデルです。さりげないスケルトン針やインデックス、文字盤とのバランスにはパルミジャーニ・フルリエが理想とする黄金比でデザインされており、ムーブメントの完成度は伝統的なスイス時計の美しさも兼ね備えた一級品です。
5 【神の手を持つ時計師】パルミジャーニ・フルリエのおすすめモデル5選
5-1 トンダ カランドリエ アニュエル Ref.PFC272-1201400-HA1442
パルミジャーニ・フルリエを代表するコレクションのトンダからの一本。アニュアルカレンダーを搭載したコンプリケーションモデルです。
3時位置のインダイヤルで月、6時位置にムーンフェイズ、9時位置に曜日、文字盤外周に配置されたレトログラード式のポインターデイトを備えています。北半球と南半球を同時に表示するムーンフェイズのため月が二つ見えるのもあり、クラシックな雰囲気を強く感じます。どれも基本的な機能のはずなのに細かいこだわりを見せる完成度の高い一本です。
5-2 トリック エミスフェール レトログラード Ref.PFC901-1020001-300182
ミシェル・パルミジャーニの哲学が余すところなく発揮されているトリックコレクションの一つ。モルタージュ装飾されたベゼルとギョーシェが施された文字盤はどちらも職人よる手仕上げによりつくられています。伝統的な技法を残したい、職人の手作業のクセのようなものがあえて欲しいとされるこだわりを感じさせるデザインです。
第二時間帯を表示するいわゆるデュアルタイム表示機能を搭載しており、12時位置のインダイヤルで一目でわかるようになっています。脇に昼夜の区別用に24時間計が備えてあり、6時位置のインダイヤルでも同じ機能を配置しています。文字盤外周、馬の蹄くらいの幅で止まるレトログラード式のポインターデイトに思わず目を奪われてしまいます。
5-3 トンダ クロノール アニヴェルセール Ref.PFH282-1202500-HA1441
クラシックな横3つ目クロノグラフを記念モデルとしてグレードアップさせたモデル。12時位置のビッグデイト、3時位置と9時位置のクロノグラフ積算計、6時位置のスモールセコンドは針を両面使う秒表示となっています。自社グループ内で調達できる立体的な鋲のインデックスとケース形状にはミシェル・パルミジャーニのこだわりを感じます。
文字盤はエナメルの中でも稀少な七宝焼きが採用されており、わずか25本のみ生産されています。36000振動のハイビート、スプリットセコンドクロノグラフを搭載したハイエンドモデルです。
5-4 カルパ XL ヘブドマデイル Ref.PF005716
トノーケースが特徴のカルパのXLモデル。XLといってもビッグサイズというわけではなく、カルパグランデなども展開されていますが、黄金比を優先しているためかサイズ展開が複雑です。
ヘブドマデイルとはフランス語で一週間のことで、8日間パワーリザーブを表しています。12時位置の立体的なインデックスの真下にレトログラード式のパワーリザーブ表示を備えており、黒から白への切り替わりで残りの巻き上げ量を確認できます。ミニッツマーカーは中央部に少し寄った位置に扇形に配置されており、短めの針とのバランスが取られています。黄金比でできたケース形状だけでなく、文字盤の美しさも当然一級品です。
5-5 トンダ PF スポーツ クロノグラフ Ref.PFC931-1020002-400182(2024年新作)
スポーツウォッチとしての軽やかさを持ちながら伝統的なエレガントさをメインとするトンダPFスポーツクロノグラフの2024年モデルです。文字盤はクル・トリアンギュレールパターンの細かなギョーシェによって光を美しく反射することで、見る角度ごとに違う顔を見せます。立体的なバーインデックスやスケルトンの時分針、長く細身の秒針など質感のあるスマートさを感じさせます。
細かくローレット加工されたベゼルの刻みは通常のモデルよりも細かく入れてあり、より繊細な印象に。インダイヤルと文字盤外周のフランジ部を同じカラーリングにすることで統一感を強調し、伝統的でエレガントな仕上がりになっています。
6 【神の手を持つ時計師】パルミジャーニ・フルリエ
パルミジャーニ・フルリエの歴史、魅力、代表シリーズ、カルテフルリエ、おすすめモデルについてまとめました。修復師としての技術を時計作りに持ち込むことで、古典的で本質を突くような審美性や昔ながらの手仕事による巧みな技術を発揮しています。スイス時計の発展を見据えたカルテフルリエの制定など、自社だけでなく業界に寄与する活動もしています。もし街中でパルミジャーニ・フルリエの時計を見かけたらぜひ一度手にとってみてください。