2024年3月31日
エルメスのカレについて徹底解説。名作と呼ばれるその魅力。
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「そろそろエルメスのアイテムを手にしたいけど、スカーフってどうなんだろう」と迷われていませんか?
エルメスのスカーフ「カレ」はファーストエルメスとして、おすすめのアイテムです。張りのあるシルクは扱いやすいうえ、色柄の美しさがコーディネートのアクセントとして役立ちます。寒暖差のある季節の調整にもなるので一枚あると手放せなくなるでしょう。巻き方によって変化は無限大です。
ここではエルメススカーフの名作柄や選び方、ブランドの歴史について解説していきます。初めてエルメスのスカーフを手にしてみたい方、コレクションして楽しみたい方の参考になるので、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
1.エルメスのスカーフ『カレ』は名作と呼ばれる人気アイテム
エルメスといえば、バーキンを始めとする革製品に注目されることが多いかもしれません。はじめに日本でエルメスのスカーフが流行したのは、いわゆるバブル期(1985年〜1990年)でした。なんと当時は、お土産やホワイトデーのお返しに気軽にもらう、そんな時代だったそうです。
そのため多くの女性たちが、まるで制服のように身に着けていたという一大流行期を経験しました。その世代を母親や祖母にもつ方にとっては2015年前後のバッグハンドルスカーフのほうが印象に残っているのではないでしょうか。リボン状の細長いスカーフをバッグの片方のハンドルに巻きつけるスタイルは、エルメス以外のアパレルでも多く見かけるほど流行しました。
現在、2度の流行期を経てエルメスのスカーフは定番となっています。実際に手に取り品質やコーディネートの汎用性から、魅力的なファッションアイテムとして再認識された結果です。国内はもちろん海外でも人気が高く、特に台頭するアジア圏で成熟した消費者が増加傾向にあります。シーズンごとにテーマに沿った新作発表をおこない、まるで一枚の絵画のような美しいスカーフは唯一無二の存在といえるでしょう。
そんなエルメスのスカーフはサイズやモチーフ、素材がバリエーション豊富にラインナップされています。
1-1.カレのバリエーション
ここではエルメススカーフのバリエーションをカテゴリー別に解説していきます。
1-1-1.サイズは5つ
フランス語で正方形を意味する「カレ」は、主に5サイズで展開しています。他に形状が細長いツイリー、プリーツスカーフがあります。
カレは45㎝、55㎝、70㎝、90㎝、140㎝の正方形です。
一番小型の45㎝はガヴロッシュと表記され、プチカレと呼ばれています。55㎝はバンダナと表記されているようにカジュアル使いを想定したものです。
以前は90㎝が抜きん出て人気でしたが、最近は70㎝も同様の人気があります。この大きさは襟元や頭に巻くのに最も適していて、どのポジションを見せるかで変化がつけやすいからです。
またウエストにベルト代わりに使えばポイントとなって華やぎを添えられます。好まれるサイズが変化した理由は全体的にファッションがカジュアルにシフトしている影響といえるでしょう。
最後に140㎝はカレジェアンと表記され、いわゆるショールのような存在感です。このサイズを額に入れて壁掛けすれば素敵なインテリアとなるでしょう。飛行機などで長時間の移動時に重宝するブランケットとして十分な大きさがあります。
ツイリーは先述したバッグハンドルに巻きつける使い方がよく知られています。それ以外だとブレスレットのように手首に巻く使い方も素敵です。もちろん襟元にコンパクトに結んでチョーカーのように見せてもいいでしょう。ヘアアクセサリーとしても申し分ありません。
プリーツスカーフは、カレ90㎝又は140㎝に手作業でプリーツ加工をほどこしたスカーフです。伸縮性とテクスチャーが使う人のインスピレーションをかきたてるアイテムとして人気があります。大きさによってポイント使いしたり、トップスの役割を持たせたりして楽しめます。
さらに最近のコレクションでは、三角形(188㎝×94㎝)の形状をしたトライアングルジェアンというスカーフが新作として発表されています。これは最初から三角形で仕上げ、襟元でスタイルを保ちやすくしてあります。ボリューム感があって使いやすいため、新作ながら注目を集めています。
1-1-2.素材は基本的にシルク100%
エルメスのスカーフは基本的に絹100%のシルクツイルを採用しています。最近は少し変化して、カレ140㎝カレジェアンを中心にカシミヤを混紡した生地も使っています。カレジェアンのサイズ感がブランケットとして最適なので、肌触りや保温性を重視したためです。
また、エルメスではスカーフをより楽しむアイテムとしてメタル素材を使った様々なスカーフリングを提案しています。留め具としてはもちろん、それ自体がアクセサリーとして主役になるアイテムです。特にツイリーとの組み合わせはペンダントトップとしての役割を果たし、チョーカー使いに最適な組み合わせになるでしょう。
1-2.名作に惹かれるコレクターも多い
エルメスのスカーフが人気なのはデザイン性と使い勝手の良さ、素材の品質が高いことが挙げられます。特に、カレの柄に心惹かれ数多くのコレクターが存在することからも、その人気がうかがい知れるでしょう。現在も新作発表に余念のないエルメスですが、その人気ゆえに名作柄といわれるスカーフが数多く存在します。
世界一売れたスカーフとしてギネスブックに登録された「Brides de Gala:ブリッド・ドゥ・ガラ」は、その名作柄の筆頭です。これは馬具職人として創業したエルメスに欠かせない馬勒(ばろく)をカレに描きました。1957年にロベール・デュマによってデザインされたもので、今も採用されているパターンです。エルメスでは発表した柄をパターンとして全て残しています。その膨大な数のパターンと新作へのこだわりがエルメスの資産といえるかもしれません。
2.カレの魅力はバリエーション!人気の柄8選
ここではカレの人気柄について解説していきます。
2-1.動物
出典:HERMES
エルメスで動物柄といえば、やはり馬が圧倒的に人気です。一頭を写実的に描いたり、数頭をカラフルでポップに描いたりして幾通りにもデザインしています。人を乗せた乗馬スタイルもよく採用されているデザインの1つです。伝統的でありながら少しも色あせないデザインに驚きを禁じえません。
最新コレクションでは馬の結婚式をユーモラスに表現しています。その他にはヒョウやペンギン、パンダといった動物がモチーフとして採用され、人気を集めています。馬の人気に迫る猫もまた人気のモチーフです。1998年に発表された「CAVA FELEM:猫に注意」は、ネズミに注意喚起する絵柄がユニークなデザイン。
2-2.世界の国々
出典:HERMES
エルメスでは自国フランスはもとより、各国をテーマとしてコレクション展開することがあります。スカーフでも世界中の国々をテーマとした新作を発表してきました。その中には数年後に復刻版として発表される人気モチーフもあります。特にアフリカをテーマとしたデザインはエルメスの得意とするところで、大草原にライオンやシマウマといった野性味あふれる景色をみせてくれます。
またアジア圏では日本をはじめ、中国(四川省)やインドがモチーフに選定されました。中国の四川省をテーマにしたカレは、色彩がくすみを感じさせるトーンのデザインでヨーロッパで流行したシノワズリの名残を思わせます。また2004年頃、北極をテーマとして発表された「La Via Du Grand Nord:北極圏の暮らし」は、ひときわ異彩を放つ存在です。ホッキョクグマやアザラシと一緒に先住民族のエスキモーが描かれています。
2-3.馬具
出典:HERMES
エルメスの馬具柄は「Brides de Gala:ブリッド・ドゥ・ガラ」以外も人気です。鞍や鐙(鞍への足がかり)、蹄鉄(馬のひずめを保護する馬具)、手綱などをバランスよく配置してデザインされた柄は、計算された余白の美を感じさせます。スカーフとして巻いてみると曲線を見せたり、幾何学的に見せたりできて視線を集めてくれるでしょう。カラーバリエーション次第で季節感を変化させられるのでモチーフとして秀逸です。過去には馬術書や馬術コースをモチーフにしたこともありました。
2-4.鍵
出典:HERMES
鍵柄も馬具と同じくアレンジしやすいモチーフといえるでしょう。無機質な金属である鍵を並べたデザインは、これまでもカラーを替えて発表されてきました。エルメスでは伝統的な柄として長く愛されています。精密な模写で描かれる鍵は、曲線と直線のバランスが絶妙です。エルメスだと分かりやすい独自モチーフともいえるでしょう。
2-5.メゾンエルメス
メゾンエルメスとは、エルメス本社の社屋をモチーフとしています。パリのサントノーレ通りに実在する建物を「Noel Au 24 Faubourg:フォーブル24番地のクリスマス」で表現。エルメス好きには垂涎のデザインとして人気を博しました。
雪化粧のメゾンエルメスをスノードームに閉じこめてクリスマスムード満載なデザインです。心躍るような時間をファンタジックに表現しています。小さなサンタが可愛らしく、クリスマスインテリアとして飾ってシーズンムードを楽しむのもいいでしょう。
2-6.神話
出典:HERMES
最新作「オルフェウスに誘われて」は、ギリシャ神話からインスピレーションを得てデザインされました。祝祭に詩人のオルフェウスが竪琴をつま弾いていると、トラやクジャク、大蛇に雄牛といった動物たちが集まってくる様子を描いています。
さらには、神獣のペガサスやケンタウロスの姿もあります。近年のコレクションで色彩豊かで喜びにあふれた逸品です。エルメスではスカーフの両面にプリントする技術「ダブルフェイス」が新開発されました。このカレは裏面も美しいデザインが描かれていて、一枚あるとコーディネートが広がるのでおすすめです。
2-7.日本
エルメスと日本には昔から深いかかわりがあります。海外展開を始めた頃、当時の日本はエルメスにとって世界第2位の売上を誇る国でした。「なぜエルメスが日本人に好まれるのか」これは日本に職人の仕事に対するリスペクトがあるため、と考えたエルメスは他国に先駆けて銀座にメゾンをオープンします。日本と共有できる価値観があり、一過性の流行ではないと判断したからです。
さらに、それまでの社史を唯一まかせたのが日本人漫画家の竹宮恵子氏でした。
タイトルは「エルメスの道」
漫画で読めるエルメス史として初版が2000年に、新章を加筆した次版が2021年に発表されています。(エルメス公式HPで公開中)漫画を日本の文化として、また世界的なサブカルチャーとしてデザインに落としこんでいるエルメス。もちろんカレのデザインには日本モチーフを数多く採用しています。
2011年に発表された「Ex Libris En KIMONOS」は、日本の着物から市松模様、麻の葉、家紋、松竹梅、鶴亀、青海波などの伝統柄を採用したデザインです。この年は日本最古の百貨店、松坂屋400周年を祝して記念タグ付き限定品が発売されました。過去には甲冑がモチーフとなったこともあります。現在はモチーフだけでなく、多くの日本人デザイナーがエルメスで活躍しています。
2-8.自然(海や植物)
出典:HERMES
海や植物、季節もエルメスではモチーフに採用しています。1992年、「海」を年間テーマとして帆船、航海、海の仲間たちをデザインしました。1994年には「太陽」をモチーフに輝く日差しやヒマワリをデザインしています。
様々にモチーフを変化させ、気品あるカラーで人気を集めています。最新コレクションでは「スプラッシュパーク」でクラゲやホタテ、カニを非常にユーモラスに描いています。全体をパステルトーン、縁をホワイトにすることでポップで抜け感ある仕上がりになっています。多色使いで使いやすい一枚です。
3.エルメスのスカーフの選び方とそれぞれのコーデ術!
ここでは公式HPを参考にしたエルメススカーフの選び方とコーディネートを解説していきます。
3-1.カレ(70㎝、90㎝)
エルメスのスカーフ選びに迷ったらカレの70㎝か90㎝のどちらかがおすすめです。この大きさは襟元はもちろん、ヘッドスカーフとしても使えて便利です。ヘッドスカーフの結び目は後頭部に結ぶのが今っぽく決まります。オープンカーでドライブする季節に髪の乱れが抑えられるので試してみてください。もちろん街歩きもそのままOKです。さらっと肩にかけて冷房除けにも最適です。
正方形を対角線で三角にたたみ、頭に折った対角線を正面に見えるよう乗せてからサイドを後頭部で、ほどけないように2回結びます。前髪は好みで調整します。柄によってカジュアルにしたり、エレガントに見せたりできるのでコーディネートを楽しめます。
スカーフリング、またはお持ちの指輪で襟元に巻きなおすのも簡単です。平らな場所がなければ手に持ったままで対角の角をつまみ、斜めに折っていきます。中央を首にかけてリングを通せばネクタイのように仕上がります。
3-2.カレジェアン(140㎝)
カレジェアンはボリューム感を活かして巻きたい時に便利です。厚手のコートとのバランスが一番いいので秋冬に最適なアイテムといえます。一方、薄手のシャツやノースリーブを着ている真夏には、ふんわりと大きく巻いたポイント使いが映えます。また、手持ちや肩掛けにしているだけでトータルコーディネートを格上げしてくれる迫力があります。
カウボーイ巻きはカレジェアンにおすすめの巻き方です。対角に三角に折って、折り山を首の正面にあててから後ろで交差させます。前で2回結ぶか、スカーフリングで留めてもいいでしょう。しっかりボリュームがありながら襟元が決まり安定します。留めずに両端をたらしてコートの襟元からのぞかせることもできます。
目立つアイテムなので柄のピッチ選びが肝心です。身長が高い方は大きな柄を使いこなせるでしょう。
3-3.ツイリー(5㎝×86㎝または165㎝)
近年、人気が高まるばかりのツイリーは扱いやすさから手にしやすいアイテムの1つです。すでにリボン状になっているので、たたむ必要がありません。お馴染みのバッグハンドル巻きからチョーカー使い、ブレスレットとして最適なサイズになっています。
選び方は、それほど神経質にならず気に入ったカラーがおすすめです。ヘアアクセサリーとしても万能でカチューシャのように結んだり、編み込んでみたりするのもいいですね。ツイリーは幅が5㎝共通で長さが86㎝と165㎝(ツインズ)があります。ツイリーツインズはベルトとしても余裕を持って使えるのでシンプルなワンピースのアクセントにいかがでしょうか。
4.エルメスの歴史。現在に至るまでの歩み
ここからは創業から180年以上にわたるエルメスの歴史について解説していきます。
4-1.馬具職人からスタートしたエルメス
500㎞もの距離を徒歩でパリに向かう13歳の少年ティエリ・エルメス。
彼はパリで馬具職人として生業をたてるため、途方もない距離を移動していたのでした。当時、移動手段の主役は馬車だったので馬具を扱う職人は大勢いました。
しかし、彼の丁寧で馬に優しい手仕事は群を抜いて評判が高かったのです。
パリで修行をつんだ彼は技術をさらに磨き、名だたる一流店から指名されるようになっていきます。1837年、彼が36歳になったとき満を持して自らの工房エルメスを創立しました。
ナポレオン三世が統治する華やかな時代にエルメスは大きく飛躍します。その成功は子や孫に受け継がれ、一族による経営地盤を強固にしていきました。一族経営の流れはティエリから5代目社長まで一貫しています。職人として研鑽を積むことをやめないティエリの仕事は万博で花開きます。
1867年、パリ万博に初出品した女性用の鞍が見事に銀メダルを獲得したのです。しかし「完璧な成功」を望む彼には不満の残るものでした。その11年後の1878年に開催されたパリ万博で、ついにグランプリを獲得します。その受賞の一報が届いたのは彼が亡くなった3ヶ月後のことでした。
ティエリの息子シャルルが2代目社長となってもエルメスの発展はとどまりません。工房をフォーブル・サントノーレ通り24番地に移し、馬具の製作から販売まで行えるようにしました。店には顧客がひっきりなしに訪れて大変な賑わいを見せるようになります。
2代目社長シャルルの長男アドルフは職人に、次男エミール・モーリスは販売分野で実力を発揮しました。エミールは、後の「ミスターエルメス」と称されるほどの才覚を見せるようになっていきます。1900年代初頭に入ると自動車が開発され、馬車から主役の座を奪っていきました。
エルメスの経営にも影を落とし始めたちょうどその頃、第一次世界大戦が勃発します。従軍したエミールは革の買い付け担当としてカナダに派遣されました。幌馬車で移動中に、アメリカ製のファスナーを目にした彼は閃きを覚えます。「これを鞄の留め具にできるかもしれない」戦後、パリに戻った彼は自動車にとって変わられた馬車の馬具ではなく、鞄作りを始めたいと兄に申し出ました。
しかし、馬具職人であるアドルフと袂を分かつ結果をまねいてしまいます。1922年には彼と職人たちが新生エルメスとして再出発します。
戦後の品不足に負けず、彼はありったけの革を使って婦人用の鞄や財布といった小物を作り始めます。そして、その鞄にアメリカから買い求めておいたファスナーを取り付けたのです。初のファスナー付きバッグは女性たちに大評判となりました。この成功は職人たちを馬具を作っていた戦前より多忙にします。エミールは当時の時代の寵児だったココ・シャネルと出会います。彼女のスカートに初めてファスナーを付けたのはエルメスの職人たちです。
1929年、順風満帆に見えたエルメスに最大の危機が訪れます。アメリカ大恐慌によって大きな負債を抱えたエミールはニューヨーク出店を諦めざるをえませんでした。その後始末を買ってでたのが、すでにエルメスに入社していた娘婿のロベール・デュマです。彼は給料を返上して、取引業者や従業員たちと一緒にエルメスの危機を乗り越えるため奔走します。
その甲斐あって、1935年には完全に危機を脱し軌道修正が図られたのです。当時珍しかった健康保険や有給休暇などをエルメスでは国より先んじて導入していました。従業員を大事にする理念があったからこそ、全社一丸となって危機を乗り越えられたのでしょう。エミールはこれを世代交代の機会として、二人の娘婿ロベール・デュマとジャン・ゲランに経営の実権を譲りました。彼らはエルメスのスカーフと香水の立役者です。1937年にロベールはスカーフ第1号となった「オムニパス・ゲームと白い貴婦人」を発表しています。
1944年に第二次世界大戦が終わるとエルメスに新たな出会いが訪れます。エルメスにシルクスクリーンの営業に来たマルセル・ガンディです。シルクスクリーンはエルメスが採用していた木版プリントより数段優れた印刷ができるものです。シルクスクリーンに魅せられて、南仏の片田舎に会社を立ち上げたばかりのマルセル・ガンディは、この日から現在までエルメスのスカーフを一手に担うことになりました。1951年にエミールが亡くなると、正式にロベール・デュマが4代目社長に就任します。
1950年代には「ケリーバッグ」の愛称があまりにも有名なグレース・ケリー、アメリカ大統領夫人のジャクリーン・ケネディといった多くのセレブリティに愛されるようになります。ブランディングの見極めが確かなロベールは、ライセンス契約に甘んじることなくモノ作りに邁進していきます。結果的にこれが功を奏し、他のブランドがライセンス契約で陳腐化していくのを尻目に、彼が80歳で亡くなるまで安定した経営体制を貫きました。
1978年にエルメスのバトンを受けとったのはロベールの息子、ジャン・ルイ・デュマ。
彼はスカーフ部門の拡充をすすめていきます。年2回の新作発表は、自ら製作会議に立ち合い最終判断するほどでした。スカーフが現在のような存在になったのは彼の功績が最も大きいといえるでしょう。
その後エルメスでは、外部から招いた6代目社長パトリック・トマを挟んで再び創業家に戻り、ジャン・ルイ・デュマの甥であるアクセル・デュマが7代目社長に就任しています。
4-2.エルメスを支える技術と職人
エルメスは馬具職人の技術を活かして作るものを変化させながら時代を生き抜いてきました。馬具作りにかかせないクウジュ・セリエは鞍を縫いあげる技術です。一本の糸に2本の針を通し、あらかじめ開けておいた穴に両側から引き絞るように縫いとめます。この手法は革がずれることなく留められるうえ、もしどこかで糸が切れても全体がゆるみません。バッグや財布といった手で触ることが多い製品には丈夫さが求められるので、まさにうってつけの技術でした。
しかし、職人たちのプライドから少なからず反発がありました。実際に3代目のエミールは職人だった兄と決別しています。エミールは職人たちを大切にしたことで大きな危機を乗りこえた経営者でした。彼がボーナスや有給休暇、健康保険といった待遇面を重視していたからこそ職人たちも応えてくれたのでしょう。
エルメスでは今も馬具作りの工房を中心とした研修制度をとっています。技術を絶やすことなく職人たちの育成を行うため、はじめに馬具作りをさせてから他の革製品の制作に入ります。また、伝統的な競馬「ディアンヌ・エルメス杯」を主催することで乗馬文化をサポートしています。
シルクスクリーンプリントはエルメスのスカーフに欠かせない技術です。これは薄い紗の生地を枠止めして、デザイン画の線以外を樹脂で固める手法です。使う色すべてを版板にしてローラーで染料を染めつけていきます。
非常に繊細な表現ができるプリントで、エルメスでは染料の配合からおこない、カラリストといった専門家に色指定をまかせています。さらに土台のシルクツイルは蚕の生産管理をするほどの徹底ぶりです。ほぼ全ての分野で職人を育成しながら技術の研鑽に余念がありません。これがエルメスを支える柱になっていることは疑いようのない真実といえるでしょう。
4-3.時代をつかむ商才
かつて、メゾンエルメスのショーウインドウディスプレイが「エルメス劇場」と呼ばれた時代がありました。ちょうどバッグや手袋などの制作を本格的に手がけ始めて、女性たちが頻繁に店に訪れるようになった頃のことです。
エルメスの店員として働いていたアニー・ボーメルがショーウインドウに商品を美しく飾り、通りを歩く人々の目を釘付けにしたのです。今ではデパートのショーウインドウでよく見る光景ですが、当時は他では見られない装飾でした。3代目社長エミールは彼女のアイデアを非常に気に入って、専属の装飾デザイナーとして任せるようになります。店員からの大抜擢でしたが彼にとっては、ごく当たり前の事でした。
彼は幼少のころから商品を売る才能にあふれていました。何が求められているかをいち早く察知して動ける商才は、戦争や大恐慌を乗りこえてエルメスを存続させてきたことからもうかがい知れます。彼だけでなくエルメス一族にいえるのは、勤勉さをベースにしながらも変化を恐れずに時代をつかむ大胆さではないでしょうか。
5.エルメススカーフのお手入れ方法は?
ここからはエルメススカーフのお手入れ法について解説していきます。
エルメスのスカーフは絹100%です。その繊細な素材を扱ううえで、いくつか留意点があります。まず着用したら結び目をほどいて体温や汗による水分を飛ばしておくことが大切です。軽くハンガーや椅子の背もたれに掛けておいてからクローゼットにしまいます。季節によりますが半日から一日ほどがおすすめです。
水分以外の汚れをみつけたら早めに専門店でクリーニングをしておきます。時間が経過していると落ちにくく、またシミになりやすいためです。収納の際は購入時の箱にもどすと湿気がこもりやすいため、できれば桐箱か桐ダンスでの保管がいいでしょう。
正絹の着物をイメージするといいかもしれません。なければチェストの引出しに軽くたたんでふんわりと収納します。どうしても日本の湿気が絹にダメージを与えやすいので、長雨の季節が明けたら続いて晴れた日を選んで虫干しがおすすめです。直接日があたらない室内に広げておくだけで湿気が飛びます。
直射日光は生地が灼けてしまうので避けることをおすすめします。ペットがいる場合、爪にひっかかる事があるので注意して行います。タバコなどの臭いが気になるときも同様のやり方で軽減されることがあります。(衣類用の消臭剤はシミになることがあるようです)
湿気への注意とともに、ピリング(毛玉)ができやすいため強くこすらないようにします。
スカーフリングの取りはずしの際は特に気をつけて優しく扱いましょう。襟元近くのバッグストラップが接触していることがあるので要注意です。基本的にピリングは出来てしまうと一つ一つハサミで切る以外の方法がありません。大変な手間がかかるので作らないようにすることが肝心です。
また、まれにスカーフの縁かがりがほどけることがあります。エルメスのスカーフは全て職人たちによる手かがりで縁を始末しています。この場合は、まずエルメスに相談してみることをおすすめします。
ツイリーをバッグハンドルに巻いて使うと、はずすのが億劫に感じますね。その際はバッグハンドル用と割り切って使うのもいいでしょう。
ほんの少しだけ手間をかけて扱ってみると、より愛着が増して特別な存在になります。お手入れも含めて楽しんでみてください。
6.エルメススカーフは中古市場でも人気!
エルメスでは顧客管理が徹底しています。まず、新作が入るときは目ぼしい顧客に声掛けをして予約をとり、確実に数を押さえます。そのため予約なく店舗に立ち寄った場合、目当てのものが売り切れていることがあります。昨今はツイリーの人気が高まり、ネットで予約して店に並ぶといった現象が起きているほどです。そこまではちょっと…という方には中古市場を見てみるのもおすすめです。
なんといっても毎年新作がでていますから、いち早く購入したものの使わずに誰かにあげたり、個人でフリマサイトに出品したりしている方も多く見られます。またプレゼントに贈られたものの趣味が合わなかった、などで未使用品を買い取り専門店に持ちこむケースもあります。気に入ったものに出会えたら正規店で購入するより少しお得に手にできるので利用してはいかがでしょうか。
エルメスのスカーフは新作だけでなく、過去のコレクションも含めて素晴らしいものがたくさんあります。それらはヴィンテージとして流通していて、コレクターによる独自の市場が存在しています。特に人気があるのは限定品として発表されたり、お祝いの記念として発表されたりして数量が抑えられたものです。着用を目的としないため非常に状態が良いのが特徴となります。
箱やリボンといった付属品が揃っているものもあります。さらに近年インドや東南アジアの国々で経済発展が進み、新たな富裕層がコレクターの分母を拡大させて注目が集まっています。最近、こうしたヴィンテージ市場からコレクターの手を離れ、一般消費者に流通し始めてきました。日本国内でもエルメスのヴィンテージスカーフを購入できる店舗が少しづつ増えています。
よく見るのはセレクトショップの一角で販売しているケースです。ヴィンテージエルメスは現代の私たちから見ると斬新なデザインに映りますから、ぜひ実物を手に取ってみることをおすすめします。とはいえ、ブランドの宿命である偽物には要注意です。事前に調べたうえ、信頼のおける店での購入をおすすめします。
エルメススカーフの魅力は最新作はもちろん、ヴィンテージに至るまで目が離せません
7.【まとめ】カレは名作が多い人気のアイテム
今回はエルメスのスカーフについて解説してきました。
スカーフはファーストエルメスとして最適なアイテムといえるでしょう。品質、デザイン、汎用性などで決して期待を裏切りません。大切に使えば子や孫の世代に受けつぐこともできます。
職人を大切にして高い技術を守り続けながら、新しいテーマに果敢にとりくむエルメス。
伝統と革新がブランドパワーの源としてある限り、これからもトップオブブランドの地位がゆらぐことはないでしょう。